表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の条件  作者: KEI
第9話 灰色の報告

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/146

(四)西の報告が灰色を帯びる

◆ 西の報告が灰色を帯びる


西方からの報告は、その後も少しずつ増えた。


すぐに増えたわけではない。


国境洞窟の封鎖が破られた後、西の村々は、まず塩と鉄と薬を運ぶことに追われた。


壊れた荷車が直され、古い道が踏み固められ、村と村との間に途切れていた声が戻り始めた。


その間にも、低級魔物は消えなかった。


上位種は東へ移されたまま、残った小鬼や低級魔獣が畑の端に現れ、森道に巣を作り、商人道を塞いだ。


西の小村で、低級魔獣の巣が潰された。


国境洞窟の周辺で、村間連絡が増えた。


小さな神殿の巡回神官が、若い旅人に道案内されたという報告が届いた。


鍛冶屋の家に、しばらく滞在した治癒術の使い手がいたという噂があった。


道場で、外から来た若者が剣を習っていたという話もあった。


低級魔物の小さな拠点が潰された。


角笛の合図を聞いたという者がいた。


若い男を見たという者がいた。


若い女を見たという者もいた。


それらは、最初は別々の報告だった。


村の若者。


旅の連絡役。


神官の道案内。


鍛冶屋に滞在した治癒術師。


道場にいた剣士。


誰かが誰かを助けた。


誰かが道を走った。


誰かが魔物を避け、誰かが魔物を倒した。


その程度の報告として、記録塔の棚に積まれていった。


やがて、別の色が混じり始めた。


灰色である。


灰色の外套を着た若者たちを見た、という報告が届くようになった。


ただし、その呼び名は定まらない。


灰色の外套。


西の灰。


灰色の若者たち。


若い護衛役。


灰色の旅人。


ロアンという名を聞いたという者もいる。


だが、同一集団なのか、似たような噂が混ざっているのかは分からない。


報告者によって名が違う。


人数も違う。


場所も違う。


依頼内容も違う。


護衛をしていたという報告がある。


討伐を請け負っていたという報告がある。


危険な道の案内を引き受けたという報告がある。


いずれも、危険度に見合った報酬を受け取っていた。


少なくとも魔王軍の報告上、それは慈善ではなかった。


西方で活動する、報酬制の少数戦力。


冒険者。


あるいは傭兵に近い者たち。


そう扱うのが自然だった。


一方で、別の報告もある。


道端の老人を助けていたという話。


迷子を村まで送ったという話。


壊れた荷紐を結び直してやったという話。


荷車を押すのを手伝ったという話。


薬草を探す子どもを森の入口まで送ったという話。


そうした小さな手助けに、報酬の記録はない。


だが、それらは一団として受けた依頼ではなかった。


誰かが、その場で手を貸した。


誰かが、見過ごせずに動いた。


報告者も、それを同じ集団の活動としては書かなかった。


村の親切な若者。


通りすがりの旅人。


灰色の外套を着た娘。


荷車を押した少年。


神官を案内した若い男。


それぞれ別の紙に、別の出来事として記された。


人間側では、その小さな手助けが少しずつ評判になっていた。


あの灰色の若者たちは、報酬を取る。


だが、困っている者を見捨てるわけでもない。


そんな曖昧な印象が、村から村へ広がっていた。


しかし魔王軍の報告では、それは一つの物語としてまとまらない。


危険な依頼には報酬を取る少数戦力。


個人単位の小さな親切。


村落自衛。


道案内。


治療。


剣の訓練。


それぞれが別の分類に置かれた。


記録塔の棚では、近い場所に置かれた。


だが、同じ束にはまだまとめられなかった。


死霊宰相は、報告の余白に印をつけた。


西方村落自衛、増加。


若年連絡役、複数報告。


灰色外套の目撃、後発。


報酬制少数戦力の可能性。


同一集団かは不明。


監視継続。


◆ 灰色の外套


西の商人道。


夕暮れ。


荷馬車が泥にはまり、車輪が壊れていた。


近くには、低級魔物の死骸が転がっている。


商人は地面に座り込み、肩で息をしていた。


荷は散らばり、袋の中身が泥にまみれている。


その周囲に、灰色の外套を着た若者たちがいた。


一人は、壊れた車輪を持ち上げている。


一人は、荷紐を結び直している。


一人は、怪我をした商人の足に布を巻いている。


一人は、少し離れた場所で周囲を見張っている。


見張りの若者が言った。


「西側の林に、まだ二匹いる」


車輪を持ち上げていた若者が答える。


「こっちはもう少しで終わる」


「急いだ方がいい」


「急いで雑に直したら、また壊れる」


怪我人の手当てをしていた者が、商人に言った。


「立てますか」


商人はうなずこうとして、顔をしかめる。


「足首が」


「無理しないでください。荷馬車が動けば乗せます」


商人は、灰色の外套の若者たちを見た。


「助かった。あんたら、ただの旅人じゃないな」


荷紐を結んでいた若者が笑った。


「ただの旅人でいいよ」


そして、付け足す。


「報酬はちゃんともらうけど」


商人は苦笑した。


「命の値段にしちゃ安いくらいだ」


「命の値段じゃない。車輪の修理と護衛と手当ての分」


「なら、少し増やす」


「車輪の修理代を引いて、それでいい。次の町でちゃんと直した方がいいから」


商人は少し驚いた顔をした。


「欲がないな」


「あるよ」


若者は、泥のついた手を振った。


「でも、車輪が次の坂で壊れたら、また助けに行くことになる」


見張りが短く言った。


「来る」


灰色の外套が、風に揺れた。


若者たちは、すぐに動いた。


派手な掛け声はない。


勇者の旗もない。


神託の言葉もない。


聖剣もない。


ただ、慣れた手つきで低級魔物を迎える準備をしていた。


商人は、その後ろ姿を見ていた。


そして、ぽつりと言った。


「灰色の連中、か」


誰がそう呼び始めたのかは分からない。


その名は、まだ定まっていなかった。



※第9話「灰色の報告」は全五回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ