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勇者の条件  作者: KEI
第9話 灰色の報告

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(一)従来の勇者は、だ

◆ 進捗表


魔王城、戦略会議室。


長卓の上には、対勇者戦略の進捗を示す札が並んでいた。


東の辺境、封鎖継続。


勇者血族、移動制限中。


中央神殿、神託機能停止。


聖剣、封印中。


導きの石、破壊済み。


人魚、水の精霊王、実在未確認。


天空要塞、監視網強化完了。


それぞれの札の下には、報告書が重ねられている。


逃亡未遂。


密書の捕捉。


古剣の押収。


神殿連絡網の監視。


低優先度調査の継続。


西崖道の定期巡回。


火鏡塔三系統化。


記録官が読み上げる。


「対勇者戦略、主要項目はいずれも機能しています。東の勇者候補の移動は確認されず。聖都への密書は捕捉。中央神殿の勇者認定機能は停止したままです」


死霊宰相が補足する。


「東辺境の封鎖は維持されています。勇者血族の移動は、現時点ですべて未遂。聖都側からの有効な救援も確認されていません」


竜将が満足げに言う。


「勇者は出ませんな」


現魔王は、すぐには答えなかった。


彼は長卓の札を見ている。


出身地。


一族。


神託。


聖痕。


聖剣。


仲間。


それらは、まだ完全に消えたわけではない。


だが、従来の勇者譚が示してきた道は、確かに塞がれつつある。


「従来の勇者は、だ」


竜将が黙る。


死霊宰相はうなずいた。


「未知の流れは、引き続き監視します」


「続けろ」


その時、扉が開いた。


西方報告官が入ってくる。


腕には、薄い羊皮紙の束を抱えていた。


東辺境や中央神殿の報告書に比べると、紙質も書式もまちまちである。


村の徴税記録の裏に書かれたもの。


小鬼斥候の短い報告。


商人道で拾われた噂の書き留め。


洞窟監視隊からの定型文。


西の報告は、いつも整っていない。


それだけ、西が対勇者戦略の主戦場ではないことを示していた。


報告官が頭を下げる。


「西の国境地帯より報告です」


竜将が、少し退屈そうに腕を組んだ。


西は、勇者の出生地ではない。


勇者血族の中心でもない。


中央神殿への道でもない。


ただ、国境を分断するために封鎖されている地域だった。


だが現魔王は、報告官を見る。


「読め」


報告官は羊皮紙を開いた。


◆ 西の間引き


「西の国境地帯。上位種移動後に発生した低級魔物の増殖は、各村の自警団、猟師、若者による間引きにより安定傾向」


死霊宰相が確認する。


「村が潰れるほどではないか」


「はい。被害は継続していますが、村落機能は維持されています」


小鬼隊長が前へ出た。


彼は東の封鎖にも関わっていたが、下級魔物の配置や検問、低級魔物の増減を扱う現場役でもある。


「以前より、魔物への対応が早くなっています。特に若い者が、スライムや小鬼、低級魔獣の動きを覚え始めているようです」


竜将が鼻を鳴らした。


「低級魔物に慣れたところで、勇者にはならん」


現魔王は小鬼隊長を見る。


「死者は」


「出ています」


小鬼隊長は答えた。


「ただ、逃げ帰る者も多い」


「逃げ帰る」


「はい。村に近い場所で討伐していますので、危険を感じると門まで戻るようです。失敗しても、すぐに全滅する距離ではありません」


竜将が言う。


「弱い魔物を相手に、村の周りで逃げ回っているだけでしょう」


小鬼隊長は少し迷った。


「はい。おおむね、その通りです」


竜将は満足げに黙る。


現魔王は、そこだけで終わらせなかった。


「どの程度、早くなっている」


小鬼隊長は報告書をめくる。


「初期は、低級魔物一体の討伐にも大人が三人から五人。負傷者多数。現在は、慣れた村では二人から三人で対応する例があります。若い者が囮になり、猟師が止め、鍛冶屋や自警団が仕留める、といった形です」


死霊宰相が記録する。


「組織化か」


「村ごとの差があります。まだ正式な部隊ではありません。自衛です」


吸血侯が細い指で卓を叩いた。


「自衛にしては、学習が早い村がある」


小鬼隊長はうなずく。


「低級魔物の種類が限られているためと思われます。同じ相手が繰り返し出るので、対処を覚えやすい」


竜将が言う。


「ならば、なおさら問題ではない。上級魔物を見れば散る」


現魔王は少し考えた。


「記録に残せ。だが優先度は低い」


記録官が書く。


西国境地帯。


低級魔物増殖、安定傾向。


村落自衛行動、増加。


若年層の討伐経験、増加。


勇者条件、該当なし。


低優先度監視継続。


低級魔物と戦える若者が増えた。


それだけでは、勇者候補の項目には入らなかった。



※第9話「灰色の報告」は全五回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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