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勇者の条件  作者: KEI
第8話 血筋の檻

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(一)血筋を檻に入れる

◆ 系図の部屋


魔王城、記録塔。


塔の内側は、石壁が見えないほど紙で埋まっていた。


人間の家系図である。


赤い糸。


黒い札。


細い書き込み。


婚姻。


養子。


分家。


神殿入り。


騎士団入り。


道場への入門。


薬師の家への奉公。


巡礼中の行方不明者。


勇者の一族とされる家系は、もはや一本の線ではなかった。


複数の村。


複数の神殿。


複数の小貴族。


道場。


薬師の家。


巡礼者の血筋。


歴代勇者の周囲にいた者たちの子孫。


勇者を助けた者。


勇者に剣を教えた者。


勇者を匿った者。


勇者へ古い道を教えた者。


そうした者たちまで含めると、線は蜘蛛の巣のように広がっていた。


死霊宰相が、その前に立っている。


「勇者血族と断定できる家系は三十二。関係家系は百を超えます。婚姻、養子、師弟関係を含めるなら、さらに広がります」


竜将が低く唸った。


「多すぎる。やはり、まとめて焼いた方が早いのでは」


現魔王は、系図から目を離さなかった。


「焼けば、残った者が散る」


「残さねばよい」


「人間は思ったより多い。血は思ったより薄く広がる。全てを殺すには、国を滅ぼす規模の戦になる」


竜将は口を閉じた。


死霊宰相が補足する。


「実際、完全な殲滅は非効率です。勇者血族かどうか曖昧な者も多い。殺害対象を広げれば、人間諸国の結束を招きます」


吸血侯が、壁の一角を指す。


「こちらは神殿入りした血族。こちらは騎士団へ入った者。こちらは母方から薄くつながる家。すべてを敵として扱えば、王都、聖都、地方貴族、村落が一気につながります」


竜将が不満げに言う。


「つながる前に斬ればよい」


現魔王が答える。


「つながりを知る前に斬れば、次にどこを見るべきか分からなくなる」


記録塔に、短い沈黙が落ちた。


魔王は、赤い糸の一本に指を触れた。


「血筋は、線だ」


その指が、別の札へ移る。


「線は、追える」


次に、枝分かれした複数の札を見る。


「だが、切れば散る」


竜将は何も言わなかった。


現魔王は静かに続ける。


「だから殺さない。囲う」


記録官が筆を構える。


「方針は」


現魔王は言った。


「血筋を檻に入れる」


記録官の筆が、羊皮紙に走った。


勇者血族対策。


殲滅ではなく封鎖。


殺害ではなく監視。


移動、連絡、婚姻、養子、神殿接触、師弟関係を記録。


血筋を檻に入れる。


◆ 小さな抵抗


死霊宰相が、封鎖後の報告を読み上げた。


「東辺境封鎖後、複数の家系で動きがありました。子どもの移動、聖都宛の密書、古剣の移送、神殿への使い、家系図の焼却、婚姻先への逃亡」


吸血侯が続ける。


「彼らは見ているだけではありません。古い手順に従って、勇者候補を外へ出そうとしている」


竜将が鼻を鳴らす。


「やはり危険ではありませんか」


現魔王は問う。


「成功した例は」


吸血侯が答えた。


「現時点ではありません」


死霊宰相が報告書をめくる。


「封鎖線が機能しています。主要路は塞がれ、獣道も巡回対象です。密書は三通、古剣は二振り、神殿への使者は五名捕捉しました」


記録官が、捕捉物を一覧にして読み上げる。


聖都宛書簡。


勇者血族の系図。


古剣。


旅装束。


薬袋。


家紋入りの小布。


神殿への寄進記録。


東辺境の外にいる親族の名。


現魔王は、その一つ一つを聞いていた。


怒りはない。


勝ち誇る様子もない。


ただ、情報として受け取っている。


「ならば、戦略は効いている」


竜将が満足げに息を吐く。


だが、魔王は続けた。


「効いている間に、次の動きを読む」


死霊宰相がうなずく。


「抵抗は続くと」


「続く。閉じ込められた者は、最初に道を探す。道がなければ、手紙を出す。手紙が止められれば、人を動かす。人が止められれば、物を隠す」


吸血侯が微笑む。


「物が奪われれば、記憶に逃がす」


現魔王は、吸血侯を見た。


「そうだ。だから殺すな。殺せば、記憶だけが残る」


竜将が眉をひそめる。


「記憶だけなら、脅威ではないのでは」


「記憶は、次に動く者を作る」


現魔王は系図を見る。


「血筋だけでは勇者にならぬ。だが、血筋を守ろうとする者たちがいる。その者たちの動きが、次の条件を見せる」


記録官が書いた。


勇者血族の抵抗、継続予測。


動きを封じつつ、支援線を把握。


殺害ではなく、情報化。



※第8話「血筋の檻」は全五回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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