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勇者の条件  作者: KEI
第7話 空の目

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(四)空から見えないもの

◆ 空から見えないもの


視察の終わり。


現魔王は、要塞の最も高い見張り台に立っていた。


眼下には、世界が広がっている。


火山拠点から続く道。


山岳の街道。


雪原。


谷。


尾根。


魔王城へ向かう北の道。


すべてが見えるように思える。


軍が進めば、見える。


旗を掲げれば、見える。


火を焚けば、煙が見える。


馬車を引けば、轍が残る。


補給をすれば、荷の跡が残る。


負傷者がいれば、歩みが乱れる。


山を知らぬ者なら、迷った足跡が残る。


それらを見つけるために、天空要塞はある。


鳥型魔物が旋回する。


火鏡塔が夕日を反射する。


風笛が低く鳴る。


遠くに魔王城が見える。


その時、雲が流れた。


谷の一部が白く隠れる。


ほんの短い時間だった。


だが、その間、谷底は見えなかった。


調教師が言う。


「谷雲です。すぐ流れます」


天空侯が補足する。


「巡回鳥を回します」


現魔王はうなずく。


「そうしろ」


雲は流れた。


谷はまた見えた。


岩も、道も、雪も、すべて元のように見える。


だが、現魔王はしばらくその谷を見ていた。


空からは、多くが見える。


しかし、すべては見えない。


火を焚いたかは見える。


だが、なぜ火を焚いたかは見えない。


何人いるかは見える。


だが、その者たちが何者かは見えない。


どの道を選んだかは見える。


だが、誰に道を教わったかは見えない。


旗は見える。


だが、名は見えない。


現魔王は、そこまで考えてから口を開いた。


「天空侯」


「は」


「空から見えぬものを、地上の報告で補え」


天空侯はすぐに頭を下げた。


「承知しました」


「空だけに頼るな。火山、山岳斥候、密偵、捕虜、村の噂。すべてつなげろ」


吸血侯が微笑む。


「情報の継ぎ目を埋めるわけですね」


「継ぎ目から入られる」


魔王は言った。


「継ぎ目を見ろ」


記録官が、最後の行を加えた。


天空要塞情報。


地上報告と照合。


単独判定を避ける。


◆ 強化完了


魔王城へ戻った後、天空要塞の強化計画が正式に記録された。


戦略室の長卓に、報告書が置かれる。


死霊宰相がまとめる。


「天空要塞、監視網強化。火鏡塔三系統化。夜目の鴉増強。西崖道の定期巡回。司令官討伐時の自動警告。名称ではなく行動による少数戦力判定。空からの情報と地上報告の照合」


現魔王は言った。


「よい」


竜将が満足げに言う。


「これで、勇者が火山を越えても、天空で止まります」


現魔王は答える。


「止まらずとも、見つける。見つければ、魔王城は備えられる」


記録官が書き留める。


対勇者戦略、天空要塞強化完了。


現魔王は、地図の南に視線を移した。


東の辺境。


中央神殿。


導きの石。


人魚と水の精霊王。


天空要塞。


対勇者戦略は、着実に形になっている。


過去の勇者が通った道。


過去の勇者が得た助力。


過去の勇者が越えた防衛線。


それらを、一つずつ封じている。


現魔王は静かに言った。


「次は、血筋だ」


記録官の筆が止まる。


そして、新しい羊皮紙が広げられた。


天空要塞は、空の目となった。


火山から続く道を見下ろし、谷を見張り、尾根を数え、雪原に残る足跡まで記録する。


軍が進めば見える。


旗を掲げれば見える。


火を焚けば見える。


馬車を引けば見える。


勇者一行が、勇者一行として進むなら、きっと見える。


現魔王の対策は、また一つ正しく機能した。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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