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勇者の条件  作者: KEI
第40話 勇者の条件

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(六)ロアンの訂正

◆ 後の学び舎


ずっと後。


勇者の町に建てられた学び舎で、子どもたちが灰の勇者ロアンについて学んでいる。


壁には絵がある。


聖剣を掲げるロアン。


右肩に炎の聖痕を持つロアン。


神託の書を受け取るロアン。


灰の賢者ミルカ。


癒やしの聖女エナ。


神速の剣聖ガルド。


教師が言う。


「勇者には、条件があります」


子どもたちは、絵を見上げる。


「聖剣、神託、聖痕、勇者の町、勇者の一族、伝説の仲間。これらが揃ったからこそ、灰の勇者ロアンは魔王を討ったと伝えられています」


一人の子どもが手を上げた。


「じゃあ、勇者になるには、全部持っていないとだめなの?」


教師は答えようとした。


だが、その時、教室の端に置かれていた古い写しが目に入った。


旧魔王軍の訂正記録。


戦後に人間側へ渡され、何度も写され、何度も抜け落ち、それでも一部だけが残った記録。


そこには、こう書かれている。


順番が違う。


教師は少し黙った。


それから、言い直す。


「いえ。少なくとも、出発する前に全部揃えておくものではないようです」


子どもたちが不思議そうにする。


教師は続けた。


「聖剣は、最初から聖剣だったわけではありません」


壁の絵を見る。


「神託も、聖痕も、勇者の町も、勇者の一族も、仲間たちの称号も、最初からそう呼ばれていたわけではありません」


別の子どもが問う。


「じゃあ、勇者の条件って何ですか?」


教師は、少し考えた。


答えは簡単ではない。


勇気。


正義。


選ばれた血。


聖なる印。


どれか一つにしてしまえば、また間違える。


教師は言った。


「誰かが歩いた後、世界がそこに意味を見つけることがあります」


「それが条件?」


「後の人は、そう呼ぶのでしょう」


子どもたちは、まだ分かったような、分からないような顔をしている。


教師は、古い記録の最後を開いた。


そこには、ロアン本人の言葉が残っている。


◆ ロアンの訂正


教師は、古い記録を読む。


剣は、もらいものです。


神託は、物語です。


傷は、スライムです。


村は、ただの村です。


家族は、普通の家族です。


仲間は、仲間です。


それでも、それらがなければ、ここまでは来られませんでした。


子どもたちは黙って聞いている。


「傷は、スライムです」


その一文に、少し笑う子もいる。


教師も、少しだけ笑った。


けれど、その笑いは馬鹿にしたものではない。


壮大な勇者伝説の中に、スライムという小さな真実が残っている。


それは、ロアンたちが必死に残した本当の手触りである。


子どもの一人が言う。


「スライムでも、残していいの?」


教師は頷いた。


「むしろ、残した方がいいのでしょう」


「どうして?」


「書かないと、変わってしまうからです」


別の子が絵を見る。


「じゃあ、肩の聖痕は?」


教師は少し困った顔をした。


「絵では、そう描かれています」


「本当は?」


「記録では、手首の火傷です」


「スライム?」


「はい。スライム」


子どもたちは、また少し笑う。


けれど今度は、絵の中の勇者が少しだけ近く見えた。


高い台座の上にいる遠い英雄ではなく。


転んで、焼かれて、困って、それでも進んだ誰かとして。


教師は記録を閉じた。


「勇者の条件とは、最初から完全な形で揃うものではないのかもしれません」


教室の外では、子どもたちの声が響いている。


勇者の町と呼ばれる場所にも、普通の朝があった。



※第40話「勇者の条件」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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