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勇者の条件  作者: KEI
第40話 勇者の条件

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(七)一歩、進めばいい

◆ いつもの道


魔王討伐から、しばらく後。


ロアンたちは、どこかの道を歩いていた。


大きな戦いではない。


停戦後の使者の確認かもしれない。


捕虜返還の帰りかもしれない。


復興の手伝いかもしれない。


あるいは、ただの帰り道かもしれない。


道は少しぬかるんでいる。


荷物は重い。


ガルドは腹を空かせている。


ミルカは地図の端を押さえながら、風で紙が飛ばないようにしている。


エナは道端の草を見て、薬草かどうかを確かめている。


ロアンは、少し前を歩いていた。


ふと、彼は言う。


「勇者の条件って、何なんだろう」


ミルカが顔を上げる。


「急に重い話をするわね」


「ずっと考えてた」


「でしょうね」


ガルドが言う。


「飯は条件だろ」


ミルカが即座に返す。


「それはあなたの条件でしょ」


「腹が減ると進めない」


「そこだけは正しいのが困る」


エナが微笑んだ。


「歩いた後に、誰かが見つけるものなのかもしれません」


ロアンは振り返る。


「歩いた後に?」


「はい。最初から全部持っているというより、歩いた後に、あれが大事だったんだと分かるものなのかなって」


ミルカが頷く。


「少なくとも、出発前に確認するものじゃないんじゃない」


ガルドが言う。


「出発前に飯は確認する」


「あなたはもう黙っていて」


「大事だぞ」


ロアンは笑った。


その笑いは、勇者の像のように立派ではない。


ただのロアンの笑いである。


ロアンは言う。


「じゃあ、飯にしよう」


ガルドが頷く。


「それがいい」


ミルカは呆れたようにため息をつく。


「最終的にそこに落ちるのね」


エナは楽しそうに笑った。


四人は歩く。


勇者の条件を背負っているのではなく。


いつものように、次にすることを考えながら。


進むべきか。


戻るべきか。


誰に聞くべきか。


誰に頼るべきか。


どこで休むべきか。


それだけを、ひとつずつ考えながら。


空は高く、道は続いていた。


◆ 勇者の条件


かつて、魔王軍は勇者の条件を定義した。


出身地。


一族。


神託。


聖痕。


聖剣。


仲間。


それらを封じれば、勇者は生まれない。


そう考えた。


その判断は愚かではなかった。


記録を集め、飾りを削り、共通項を抜き出し、対策を立てた。


魔王は有能だった。


死霊宰相も、吸血侯も、竜将も、小鬼の書庫番も、記録官も、怠慢ではなかった。


それでも、彼らは順番を取り違えた。


聖剣は、勇者になるための条件ではなかった。


それは、魔王に届いた後に聖剣と呼ばれた剣だった。


神託は、勇者になるための条件ではなかった。


それは、歩き方を変えた後に神託と呼ばれた物語だった。


聖痕は、勇者になるための条件ではなかった。


それは、手首に残ったスライムの火傷だった。


勇者の町は、勇者になるための条件ではなかった。


それは、ロアンがそこから出た後に勇者の町と呼ばれた村だった。


勇者の一族は、勇者になるための条件ではなかった。


それは、ロアンが魔王を討った後に勇者の一族と呼ばれた家族だった。


賢者も、聖女も、剣聖も、勇者になるための条件ではなかった。


それは、ミルカであり、エナであり、ガルドだった。


ロアンは、それらを揃えて旅立ったのではない。


歩く中で、出会い、受け取り、頼り、助けられ、間違え、戻り、また進んだ。


そして、魔王の前に立った。


世界はその後に、意味を与えた。


剣を聖剣と呼んだ。


物語を神託と呼んだ。


火傷を聖痕と呼んだ。


村を勇者の町と呼んだ。


家族を勇者の一族と呼んだ。


仲間を賢者、聖女、剣聖と呼んだ。


ロアンを、灰の勇者と呼んだ。


完全な嘘ではなかった。


だが、最初から真実だったわけでもなかった。


勇者の条件は、歩く前には揃っていなかった。


歩いた後に、世界がそれを条件と呼んだ。


だから、もし誰かが新しい道の前で立ち止まり、自分には聖剣も神託も聖痕もないと思うなら。


勇者の町に生まれていないと思うなら。


特別な一族ではないと思うなら。


伝説の仲間などいないと思うなら。


それでも、まだ終わりではない。


戻る理由を考えればいい。


進む理由も考えればいい。


誰かに頼ればいい。


誰かの足りないところを補えばいい。


そして、まだ進む理由が残っているなら。


一歩、進めばいい。


意味は、たぶん後から来る。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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