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勇者の条件  作者: KEI
第40話 勇者の条件

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(一)同じ分析室

◆ 同じ分析室


魔王城の奥に、その部屋はまだ残っていた。


厚い石壁。


高い天井。


窓の少ない、冷えた分析室。


壁一面の棚には、勇者に関する記録が並んでいる。


古い戦記。


神殿の写し。


人間側から奪った報告書。


旅人の手記。


絵巻。


魔王軍の調査書。


かつてここで、勇者という存在は分解された。


飾りを削り、伝説を疑い、共通項を抜き出した。


長卓の上には、古い札が残っている。


出身地。


一族。


神託。


聖痕。


聖剣。


仲間。


かつて、魔王はその六つの札を見下ろし、静かに言った。


「勇者の条件」


記録官は、その言葉を羊皮紙に書き込んだ。


あの時、魔王軍は正しい分析をしたつもりだった。


実際、分析はかなり正しかった。


歴代勇者の記録には、確かにその共通項があった。


だから魔王は封じた。


東を封じた。


血筋を封じた。


神託を封じた。


聖剣を封じた。


導くものを砕き、合流を妨げ、伝承の道を疑った。


それでも、魔王は敗れた。


今、その分析室に残っているのは、魔王ではない。


死霊宰相。


吸血侯。


竜将。


小鬼の書庫番。


記録官。


旧魔王軍の対勇者戦略に関わった者たちである。


長卓には、あの時の札が並べ直されていた。


竜将は、その札を睨む。


「我らは、間違えたのか」


誰もすぐには答えない。


問いは鋭く、重かった。


魔王が死んだ。


その事実だけで、部屋の空気は以前とは変わっている。


吸血侯が、古い札の一つに指を触れた。


「間違えた、というより……順番を取り違えたのでしょう」


竜将が顔を上げる。


「順番?」


死霊宰相が言った。


「条件だと思ったものは、原因ではなかった。結果だったのです」


竜将の爪が、長卓の端を軋ませる。


「結果だと」


「はい」


死霊宰相は、静かに頷いた。


「勇者になるために揃っていたものではない。勇者が歩いた後に、世界が意味を与えたものだった」


部屋の奥で、小鬼の書庫番が小さく身を震わせた。


記録官は、何も言わずに新しい羊皮紙を広げる。


分析室は、もう一度、勇者を調べ始める。


ただし今度は、倒すためではない。


間違いを見るために。


◆ 魔王の遺命


竜将は苛立っていた。


「陛下は、勇者の条件を封じた。血筋も、神託も、聖剣も、東も。何が足りなかった」


吸血侯は静かに答える。


「彼らには、それがなかった」


「だからこそ、分からぬ!」


竜将の声が、分析室に響いた。


石壁が低く震える。


その場にいる全員が、魔王の最後の言葉を覚えていた。


殺すな、殺されるな。


見ろ。


私が何を間違ったのか。


あの命令は、死んだ後も城に残っていた。


竜将は歯を食いしばる。


「見ろと言われても、何を見ればよい。陛下は愚かではなかった。策も甘くはなかった。勇者を調べ、封じ、備えた。それでも、あの四人は来た」


死霊宰相は、古い記録を開いた。


「ならば、見ましょう。陛下の命令です」


小鬼の書庫番が、震える手で新しい資料を長卓に置く。


人間側の記録。


ロアン本人の訂正。


ミルカの書き込み。


エナの補足。


ガルドが書かせた田舎道場の名。


そして、端に何度も書かれた言葉。


スライム。


竜将が眉を寄せた。


「何だ、それは」


小鬼の書庫番は、おずおずと答える。


「聖痕についての、本人訂正です」


「聖痕が、スライム?」


「はい。本人は、何度もそう訂正しています」


竜将は、ますます顔をしかめた。


吸血侯は、資料を覗き込み、薄く笑った。


「この一語だけでも、我らの見た勇者像とは相性が悪い」


死霊宰相は言う。


「だからこそ、見る価値があります」


記録官が筆を取った。


古い札の横に、新しい余白が作られる。


死霊宰相は、最初の札を裏返した。



※第40話「勇者の条件」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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