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勇者の条件  作者: KEI
第40話 勇者の条件

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(二)聖剣と神託

◆ 聖剣


聖剣。


かつて、それは勇者を勇者たらしめる重要条件として記録された。


勇者が剣に触れた時、光った。


封印が解けた。


折れた剣が形を取り戻した。


神殿が授けた。


妖精が導いた。


王家が隠していた。


神聖な武器は、どの勇者伝説にも姿を変えて現れた。


だから魔王は、中央神殿の聖剣を奪い、封じた。


それは合理的だった。


死霊宰相が言う。


「ロアンの剣は、中央神殿の聖剣ではありません」


吸血侯が補足する。


「病の鍛冶師夫婦が、礼として打った剣です。エナという見習い神官が一週間かけて癒やし、その返礼として渡された」


竜将が低く言う。


「ただの剣で、陛下に届いたというのか」


「ただの剣ではありません」


死霊宰相は答えた。


「よい剣だった。旅の間、ロアンの手に馴染んだ。魔王戦でも折れなかった」


吸血侯も頷く。


「使い手に合い、必要な時にそこにあった。武器としては、十分に特別です」


「だが、聖剣ではない」


竜将が言う。


死霊宰相は頷いた。


「はい。少なくとも、勇者になるために与えられた剣ではない」


小鬼の書庫番が、人間側の新しい記録を読み上げる。


「神官の祈りと鍛冶師の火により、七日七晩鍛えられた聖剣……」


吸血侯が薄く笑う。


「もう変わっている」


竜将は言った。


「嘘か」


死霊宰相は首を振る。


「完全な嘘ではありません。神官はいた。鍛冶師はいた。七日も関わった。剣も魔王に届いた」


「ならば、何が違う」


吸血侯が答える。


「意味が違う」


部屋は静かになった。


死霊宰相は、新しい小札を置く。


そこには、こう記す。


魔王に届いた剣。


「聖剣があったから勇者になったのではない。魔王に届いたため、後に聖剣と呼ばれた」


記録官がその言葉を書き留める。


竜将は、古い聖剣の札と新しい札を見比べていた。


聖剣。


魔王に届いた剣。


二つは似ている。


だが、同じではなかった。


◆ 神託


次に、神託の札が裏返される。


かつて魔王は、神託をこう見た。


迷っている者に方針を与えるもの。


散っている情報に一本の線を引くもの。


出発する理由を与えるもの。


進む方向を固定するもの。


その理解は、鋭かった。


だから魔王は中央神殿を調べ、神託の仕組みを焼いた。


神官の記録を奪い、予言を乱し、神殿の権威を折ろうとした。


死霊宰相が言う。


「中央神殿の神託は、機能していませんでした」


吸血侯が続ける。


「それでも彼らは動いた」


小鬼の書庫番が資料をめくる。


「ロアンが影響を受けたとされる言葉は、田舎神殿にあった小さな精霊たちの物語です」


竜将が言う。


「神託ではないのか」


「本人たちは、違うと何度も言っています」


その物語は、一人の大きな精霊が世界を支える話ではなかった。


小さな精霊たちが、互いに足りないものを補い合い、世界を保つ話だった。


ロアンはそれを神託として受け取ったのではない。


ただ、いい話だと思った。


分かりやすいと思った。


一人で全部できなくてもいい。


足りないなら誰かに頼ればいい。


誰かの足りないところは、自分が補えばいい。


その考えは、ロアンの旅に残った。


吸血侯が言う。


「神託はありませんでした。ただ、方針はあった」


死霊宰相は目を伏せる。


「陛下の理解は、間違ってはいなかった。神託とは、方針を与えるものだと見抜いておられた」


竜将が問う。


「ならば、なぜ封じられなかった」


吸血侯が答える。


「中央神殿だけにあると思ったからでしょう」


田舎神殿の古い物語。


海辺の口伝。


森の歌。


水番の記憶。


密書。


通行手形。


戻る理由を教えた大人の言葉。


方針は、神託という形だけで来るわけではなかった。


神殿の奥で光る必要もない。


王の前で読み上げられる必要もない。


誰でも読める古い本の中にあることもある。


老婆の歌の中にあることもある。


村の壁に書かれた一言の中にあることもある。


死霊宰相は、新しい札を置いた。


歩き方を変えた物語。


「神託があったから進んだのではない。歩き方を変えた物語が、後に神託と呼ばれた」


小鬼の書庫番が、小さく頷いた。


「誰でも読めるものでも、そうなるんですね」


吸血侯が言う。


「誰でも読めるからこそ、後に秘されていたことにされるのかもしれません」


竜将は不満そうだったが、反論はしなかった。



※第40話「勇者の条件」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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