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勇者の条件  作者: KEI
第39話 灰の勇者ロアン

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(三)勇者の町

◆ 勇者の町


村の広場に、仮の立て札が立てられていた。


そこには大きな字で、こう書かれている。


魔王討伐者ロアン生誕の地。


ロアンはそれを見て困った。


「これ、必要ですか」


村長が困ったように言う。


「王国からの指示でな」


神官が言う。


「巡礼者も来ます。道を整えねばなりません」


商人が言う。


「宿も必要になるでしょう」


別の者が言う。


「勇者の町として整備するなら、広場も」


ロアンは慌てる。


「勇者の町ではありません」


村長は頭をかいた。


「もう、周りがそう呼び始めておる」


「止められませんか」


「止める前に、人が来る」


「人が」


「商人、神官、見物人、記録官、兵、巡礼者。すでに来とる」


ミルカが言う。


「人が来れば、村は変わるわね」


エナが周囲を見る。


「よいことも、悪いこともありそうです」


ガルドが言う。


「飯屋が増えるなら、よいこともある」


ミルカが言う。


「そこだけ見ない」


ガルドは首をかしげる。


「飯は大事だろ」


「大事だけど、今は村全体の話」


ロアンは村を見た。


自分が育った普通の村である。


スライムが出る。


畑がある。


家畜がいる。


雨が降れば道がぬかるむ。


薪を割らなければ冬が越せない。


そこが勇者の町になる。


ロアンには、うまく飲み込めない。


村長は小さく言った。


「お前が困るのは分かる。だが、村が助かる面もある」


ロアンは黙った。


「戦で物は足りん。若い者も減った。道も悪い。王国が整備するなら、助かる家もある」


それを否定することはできなかった。


自分の名前が使われるのは嫌だ。


村が違うものにされるのも嫌だ。


でも、それで村の暮らしが少し楽になるなら。


ロアンは、簡単に反対できなかった。


ミルカが静かに言う。


「ここが難しいところね」


「うん」


「全部止めると、助かるものも止まる」


「うん」


「でも、全部通すと、変な話も増える」


「うん」


ガルドが言う。


「なら、変なところだけ斬るか」


ミルカが即座に返す。


「書類は斬らないで」


エナが小さく笑った。


ロアンは立て札を見る。


魔王討伐者ロアン生誕の地。


その文字は、自分の知っている村よりもずっと大きかった。


◆ 勇者の一族


問題は村だけでは終わらなかった。


ロアンの家族にも話が及ぶ。


高官が言う。


「勇者の血筋として、保護と管理が必要です」


ロアンは眉をひそめた。


「管理?」


「勇者ロアン殿の家系は、今後重要な意味を持ちます」


「普通の家です」


「そう言われましても、魔王を討った者の家ですから」


母は困惑している。


「この子は、よく転んで帰ってくる子でしたよ」


記録官が書きかける。


ロアンが慌てた。


「それは書かなくていいです」


父が低く言う。


「勇者の血など知らん。家の仕事を手伝わせていただけだ」


高官は言う。


「だからこそ、民と共にある勇者の一族として」


ミルカが小声で言った。


「何でも変換されるわね」


ロアンは、高官をまっすぐ見た。


「家族を巻き込まないでください」


その声は、いつもの困った調子ではなかった。


はっきりとした拒絶である。


高官は少し黙る。


ロアンは続けた。


「俺が何かをしたことにするなら、俺の話にしてください。家族は普通に暮らしていただけです」


エナは静かにロアンを見る。


ガルドも黙っている。


ミルカは、ロアンの横に立った。


「それは記録して。本人が一番強く言ったところだから」


記録官は、気まずそうに筆を動かす。


高官は慎重に言った。


「ですが、ご家族の安全も考えねばなりません」


ロアンは少しだけ息を詰める。


それは、完全に間違っているわけではない。


人が集まれば、危険も増える。


ロアンの家族を利用しようとする者が出るかもしれない。


勇者の一族という名前が、家族を守ることもあるかもしれない。


でも、その名前が家族を縛ることもある。


ロアンは言った。


「安全のためなら、必要なことは相談してください。でも、勝手に勇者の血筋にしないでください」


父が頷く。


「そうだ。うちは畑と家畜と薪割りだ」


ミルカが小声で言う。


「その言い方、少し強いわね」


ガルドが真面目に言った。


「畑と家畜と薪割りは強い」


ロアンは少しだけ笑いそうになった。


けれど、笑わなかった。


今は、笑って済ませてはいけない話だった。



※第39話「灰の勇者ロアン」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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