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勇者の条件  作者: KEI
第39話 灰の勇者ロアン

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(二)故郷

◆ 幼い日の話


記録官たちは、ロアンの幼少期を聞き取っていった。


村人たちは、悪気なく色々話す。


「危ない場所には近づかなかったな」


「スライム狩りでも、無理そうなら戻ってきた」


「戻るのが早いから、臆病だと思われたこともある」


「でも、次の日には別の道を試してた」


「家の手伝いが多くて、魔法の訓練は中途半端だった」


「ミルカの方がよっぽど魔法はうまかった」


「でも、困ってる人の話はよく聞いてた」


それらは村人にとって、ただの思い出である。


だが、記録官にとっては勇者の兆しになった。


無理をしない判断力。


撤退を失敗としない精神。


次の挑戦を考える粘り強さ。


民の暮らしを知る素朴さ。


仲間の力を認める器。


記録官は書く。


「幼きロアンは、すでに危険を見る目を持っていた。退くことを恥とせず、再び進む機を待った。これこそ、後の魔王討伐に通じる勇者の資質である……」


村人が言った。


「そんな大げさなもんじゃない」


別の村人もうなずく。


「危ないから戻ってきただけだろ」


「臆病って言われて、少し落ち込んでたぞ」


記録官は顔を上げる。


「勇者にも、己の弱さと向き合う時期が」


「落ち込んでただけだって」


「その後、翌日に別の道を試したのですね」


「まあ、そうだが」


「ならば、挫折を越えた」


村人は頭をかいた。


「言い方ひとつで、ずいぶん偉そうになるな」


近くにいた老婆が笑う。


「ロアンが聞いたら困るだろうね」


「困るだろうな」


「昔から困った顔はうまかった」


記録官が筆を動かしかける。


老婆が言った。


「それは書かなくていい」


しかし記録は整っていく。


普通だったものに、意味がつく。


ただの失敗に、兆しがつく。


ただの村の子どもに、勇者の幼少期という枠がかぶせられていく。


まだロアン本人は、そこにいなかった。


◆ 帰郷


ロアンは、故郷に帰った。


魔王討伐後、初めての帰郷である。


村の入口には、人が集まっていた。


最初は家族や知人だけだった。


だが、噂を聞いた近隣の村人、神官、商人、旅人まで来ている。


見慣れた道のはずだった。


畑の匂い。


土の匂い。


家畜の声。


雨が降ればすぐぬかるむ道。


ロアンが昔から知っている村だった。


それなのに、入口に立った瞬間、知らない場所に来たような気がした。


誰かが叫ぶ。


「勇者様だ!」


ロアンは立ち止まった。


「違います」


ミルカが横でため息をつく。


「第一声がそれなの、もう慣れてきたわ」


エナは少し笑う。


ガルドは荷物を担いだまま言った。


「飯はあるのか」


ミルカが見る。


「再会の第一声がそれでいいの?」


「腹は減る」


「間違ってはいないけど」


村人の一人がロアンに駆け寄る。


「本当に魔王を倒したのか」


ロアンは少し迷って答えた。


「みんなで倒しました」


「じゃあ、やっぱり勇者だ」


「違います」


「照れなくてもいい」


「照れてません」


「昔から、褒められると困った顔をしたからな」


「これは褒められて困ってるんじゃなくて、違うから困ってるんです」


近くで聞いていた子どもたちがざわめく。


「勇者様、困ってる」


「勇者様でも困るんだ」


ロアンはさらに困った。


ミルカが小声で言う。


「ほら、困った顔まで勇者要素になった」


「どうすればいいの」


「今のところ、何をしても変換されるわね」


家族が出てくる。


母が手を振る。


父は少し硬い顔をしている。


ロアンは少し安心した。


だが、家族の後ろには、記録官と神官と高官がいる。


ロアンはまた嫌な予感がした。


エナが静かに言う。


「ロアンさん、顔に出ています」


「たぶん、出るよ」


ガルドが村の中を見ながら言った。


「人が多いな」


ミルカが頷く。


「ここからが本番でしょうね」


ロアンは、帰ってきたはずの村で、なぜかまた戦いの前のような気持ちになった。



※第39話「灰の勇者ロアン」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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