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勇者の条件  作者: KEI
第39話 灰の勇者ロアン

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(一)普通の家

◆ 故郷へ向かう記録官たち


魔王討伐から、しばらく後。


停戦交渉は、まだ続いていた。


捕虜の返還。


遺体の確認。


壊れた拠点の復旧。


残った魔王軍の処理。


人間側の軍の再配置。


魔族側との取り決め。


魔王が倒れたからといって、世界はすぐに静かにはならなかった。


むしろ、魔王が倒れたからこそ、やるべきことは増えた。


その一方で、記録官と神官たちは、別の仕事を始めていた。


灰の勇者ロアンの出自調査である。


ロアンは何度も言っている。


「勇者ではありません」


だが、その言葉はもう、ほとんど効かなくなっていた。


剣は聖剣にされかけた。


田舎神殿の物語は神託にされかけた。


スライムの火傷は聖痕にされかけた。


ミルカは賢者にされかけた。


エナは聖女にされかけた。


ガルドは剣聖にされかけた。


ならば次は、ロアンの出自である。


勇者には、ふさわしい土地が必要だった。


勇者には、ふさわしい血筋が必要だった。


少なくとも、記録官たちはそう考えた。


記録官たちは、ロアンの故郷へ向かった。


西の辺境の村。


スライム狩りをしていた村。


ロアンが田舎者だと思っていた場所。


かつては、誰も注目していなかった村である。


それが、魔王討伐者の故郷になった。


村人たちは、突然の使者に驚いた。


「ロアンが何をしたって?」


「魔王を討った?」


「いや、あのロアンが?」


「子どもの頃、スライムに焼かれて泣いてたぞ」


記録官は、その言葉に反応した。


「幼少期に魔物の火を受けていたのですね」


村人は顔をしかめる。


「火っていうか、スライムだ」


「魔物による火傷、と」


「いや、スライムだって」


「火傷は火傷ですね」


「まあ、火傷は火傷だが」


記録官の筆は止まらない。


近くで聞いていた別の村人が言った。


「おい、あれが勇者の話になるのか」


「なるんじゃないか」


「スライムに泣かされた話が?」


「魔王を倒したなら、何でもそれっぽくなるんだろう」


記録官は顔を上げた。


「詳しく聞かせてください」


村人たちは、互いに顔を見合わせた。


誰も、特別なことを話しているつもりはない。


ただ、昔のロアンの話をしているだけである。


けれど、記録官の筆先では、その昔話がすでに違う形を取り始めていた。


◆ 普通の家


ロアンの家族も呼ばれた。


父。


母。


兄弟や姉妹。


近くに住む親戚。


誰も、自分たちを勇者の一族だと思っていない。


母は困惑しながら言った。


「うちは普通の家です」


記録官が問う。


「古い家系図などは」


父が答える。


「ない」


「東方の勇者血族との関係は」


「聞いたこともない」


「先祖に騎士、神官、王族、魔術師などは」


父は少し考えた。


「畑と家畜と薪割りなら」


記録官は困った顔をする。


「薪割り」


「冬は薪がいる」


「それはそうですが」


「それ以上でも以下でもない」


記録官はさらに問う。


「古い剣が家に伝わっていたりは」


母が首を振る。


「包丁ならあります」


「聖遺物のようなものは」


「昔から使っている鍋なら」


「神託の記録は」


「子どもが熱を出した時に神殿へ行った記録なら、どこかにあるかもしれません」


記録官は筆を止めた。


勇者には血筋が必要だ。


少なくとも、これまでの記録ではそうだった。


だが、ロアンの家からは何も出てこない。


特別な紋章もない。


古い聖遺物もない。


封じられた剣もない。


神託の記録もない。


ただ、よく働く家族がいる。


ロアンが家事手伝いで魔術訓練にあまり出られなかった話まで出てくる。


記録官は一瞬困った。


だが、すぐに書き換えの種を見つける。


「幼少より家を支え、労苦を知る……民の暮らしを知る勇者……」


父が首をかしげた。


「薪割りしてただけだが」


母も言う。


「あと、よく買い物を忘れました」


記録官が反応しかける。


母は慌てて言った。


「これは勇者の兆しではありません」


記録官は少し残念そうに筆を下ろした。


親戚の一人が言う。


「ロアンは、昔から話は聞く子だったな」


「それは本当ね」


母が頷いた。


「手伝いの途中でも、誰かが困っていると足を止めるから、帰りが遅くなることもありました」


記録官の目が光る。


「困っている者の声を聞く幼少期……」


父が低く言う。


「薪割りは遅れた」


「民のために家の務めをも後に」


「違う。薪割りは薪割りだ」


記録官は、少し困った顔で、それでも書いた。



※第39話「灰の勇者ロアン」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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