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勇者の条件  作者: KEI
第6話 存在しない助力

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(一)存在するなら見つける

◆ 存在するなら見つける


魔王城、分析室。


黒い石の長卓には、深海拠点と火山拠点に関する記録が並べられていた。


深森拠点に関わる導きの石は、すでに砕かれている。


石は失われた。


祠も壊された。


文献に記された深森攻略の道は、断たれた。


次に調べるべきは、過去の勇者が四拠点を越える際に得たとされる、別の助力だった。


死霊宰相が、焦げ跡の残る写本を開く。


「深海拠点。過去の勇者一行は、人魚の助力を得て海底の門を開いた、とあります」


竜将が鼻で笑った。


「人魚など、吟遊詩人の飾りでしょう」


死霊宰相は別の記録を開く。


「火山拠点。過去の勇者一行は、水の精霊王の力により、炎の守りを鎮めた、とあります」


竜将はさらに呆れた顔をする。


「次は精霊王ですか」


現魔王は、竜将を責めなかった。


その反応も当然ではある。


人魚。


水の精霊王。


勇者譚の中では、それらは美しく語られる。


歌に乗り、絵巻に描かれ、神殿の写本では光をまとっている。


だからこそ、飾りだと切り捨てたくなる。


だが、魔王はそうしなかった。


「存在しないと決めるのは、調べた後だ」


竜将が口を閉じる。


魔王は続けた。


「人魚が存在するなら、見つける。水の精霊王が存在するなら、契約の痕跡を探す。存在しないなら、存在しないと確認する」


吸血侯が微笑む。


「調べる価値がないものは」


「調べた後に決める」


記録官が筆を走らせる。


特殊助力調査。


対象、人魚。


対象、水の精霊王。


現魔王は、卓上の地図を見た。


南の海。


深海拠点。


火山帯。


火山拠点。


「勇者譚の飾りを笑うな。飾りの下に、事実が残る」


その言葉に、死霊宰相が静かにうなずいた。


人間の記録は飾る。


神殿は奇跡として書く。


吟遊詩人は美しく歌う。


だが、完全な無から歌は生まれない。


そこに何かがあったから、形を変えて残っている。


現魔王は、それを知っていた。


だから、調べる。


信じるためではない。


恐れるためでもない。


不確かなものに、形を与えるためである。


◆ 深海拠点


死霊宰相が、南の海図を広げた。


北の大陸から南の大陸へ渡る海路。


その途中に、深海拠点がある。


地図上では、ただの海域に見える。


だが、そこには水中と沿岸を支配する魔王軍の防衛線が築かれていた。


海竜。


水棲魔族。


深海の魔物。


潮流を乱す結界。


岩礁に偽装された砲台。


夜だけ浮かび上がる監視塔。


深海拠点が残る限り、各国の船は南の大陸に近づけない。


海魔将が報告する。


「深海拠点は健在です。沿岸国の小艦隊が一度接近しましたが、すべて沈めました。人間の船で拠点へ近づくことは不可能です」


現魔王が問う。


「海底側は」


海魔将は、わずかに表情を変えた。


「海底洞窟や旧水路は封鎖済みです。深海の圧に耐えられる人間などいません」


死霊宰相が言う。


「過去の記録では、人魚が海底の門を開いたとされます」


海魔将が笑った。


「人魚など確認されておりません。少なくとも、我らが海を支配してからは」


「確認されていないことと、存在しないことは違う」


海魔将の笑みが消えた。


「失礼しました」


「調査しろ」


現魔王は命じた。


「沿岸部、漁村、古い海神信仰、半魚人伝承、水中呼吸の術、海底洞窟の口伝。すべて調べろ」


海魔将は深く頭を下げる。


「は」


竜将が腕を組む。


「そこまで調べますか」


「深海拠点が破られた記録がある」


「それは過去の話です」


「過去に起きたことは、形を変えてまた起きる」


魔王は海図の上に指を置いた。


「同じ形で来るとは限らぬ。だから、まず過去の形を知る」


記録官が、命令をまとめていく。


深海拠点周辺。


人魚伝承。


海底門。


沿岸口伝。


漁村調査。


現存確認。



※第6話「存在しない助力」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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