(一)今度は仲間たち
◆ 今度は仲間たち
魔王討伐後の記録作業は、まだ続いていた。
ロアンの剣。
田舎神殿の物語。
幼い頃の火傷。
それらは、すでに記録官と神官たちの手によって、少しずつ違う意味を与えられ始めている。
剣は聖剣に。
物語は神託に。
火傷は聖痕に。
ロアンは何度も否定した。
ミルカも訂正した。
エナも説明した。
ガルドも「スライムも書け」と言った。
それでも、筆は止まらなかった。
そして記録官たちは、次のものを探し始めた。
勇者本人に証があるなら、その仲間にもまた、ふさわしい役割があったはずだ。
記録官が、新しい紙を広げて言った。
「次に、灰の一団の仲間について確認したい」
ミルカが嫌そうな顔をする。
「嫌な予感しかしない」
エナが小さくうなずく。
「私もです」
ガルドは首をかしげた。
「何を聞くんだ」
ロアンは心配そうに三人を見る。
自分の剣や傷が勝手に意味づけられるだけでも困った。
今度は仲間たちである。
それは、自分のこと以上に落ち着かない。
ロアンは記録官に言った。
「変なふうに書かないでください」
記録官は真面目にうなずく。
「可能な限り正確に」
ミルカが即座に言った。
「その言い方、もう信用できないのよ」
記録官は困ったように筆を止める。
「では、正確に」
「最初からそう言って」
エナが少しだけ笑った。
ガルドは記録官の紙を見ている。
「俺たちにも証がいるのか」
ミルカが言う。
「いらない」
「でも、探すらしいぞ」
「探すなと言ってるの」
ロアンはため息をついた。
「また、ないものを探されるのか」
ミルカは腕を組む。
「ないものならまだいいわ。あるものに違う名前をつけられるのが、一番面倒」
記録官は黙っている。
その沈黙が、すでに答えのようだった。
◆ ミルカの場合
最初に調べられることになったのは、ミルカだった。
魔王城の結界を読んだ魔法使い。
魔王戦で大規模術式の要をずらした魔法使い。
派手な魔法ではなく、小さな魔法で戦局を変えた魔法使い。
記録官が問う。
「ミルカ殿は、どこの高位魔術院に所属を?」
ミルカは答えた。
「所属してません」
「では、中央魔法学院の出身で?」
「行ったことはありますけど、出身ではないです」
「正式な宮廷魔術師の任官歴は」
「ありません」
「魔術師組合の上級認定は」
「持ってません」
記録官の眉が少しずつ下がっていく。
ミルカは逆に落ち着いてきた。
「期待していた経歴が出なくて悪かったわね」
ロアンが小声で言う。
「ミルカはすごいよ」
ミルカがロアンを見る。
「今は黙ってて」
「はい」
記録官は気を取り直して尋ねる。
「では、師は?」
ミルカの表情が、少しだけ柔らかくなった。
「師匠はいます。北の方にいる、変な人です」
記録官の目が光る。
「北の賢者ですか」
ミルカは嫌な顔をした。
「そう呼ばれてることもありますけど、変な人です」
神官が言う。
「では、ミルカ殿は北の賢者の直弟子ということに」
「言い方」
ロアンが少し笑った。
ミルカは睨む。
「笑わない」
「ごめん」
記録官は書き留める。
北の賢者の弟子。
魔王城の術式を見抜く。
魔王の魔法陣の要をずらす。
勇者を支えた知恵ある魔法使い。
その並びは、もう危ない。
ミルカは気づいた。
「待って。私を賢者とか書く気じゃないでしょうね」
記録官は沈黙した。
ミルカは頭を抱える。
「やっぱり」
ガルドが首をかしげる。
「賢いから賢者じゃないのか」
「違う。たぶん違う。少なくとも私は嫌」
エナが控えめに言う。
「ミルカさんは賢いと思います」
ミルカは少しだけ困った顔をした。
「エナが言う分には怒りにくい」
ロアンが言う。
「俺が言うと?」
「盛られるからだめ」
「俺、そんなに危ない?」
「かなり」
記録官の筆は、すでに動きかけていた。
※第38話「賢者、聖女、剣聖」は全八回です。
続きます。
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