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勇者の条件  作者: KEI
第37話 聖剣、神託、聖痕

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(五)聖剣、神託、聖痕

◆ 後の記録


ずっと後。


神殿の展示室には、傷んだ剣が納められる。


硝子のような結界の向こうに置かれたその剣を、案内役の神官が子どもたちに語る。


「これこそ、灰の勇者ロアンが魔王を討った聖剣である。神官の祈りと鍛冶師の火により、七日七晩鍛えられたと伝わる」


子どもたちは目を輝かせる。


誰かが尋ねる。


「ずっと打ってたの?」


神官は微笑む。


「伝承では、そう語られている」


同じ頃、田舎神殿は、いつの間にか神託の神殿と呼ばれている。


古い精霊の物語は写本され、飾られ、聖句として読まれていた。


小さき者ら、互いに欠けを補い、世界を支える。


その一節は、額に入れられ、祈りの場に掛けられている。


さらに別の記録には、ロアンの幼少期の火傷が絵に描かれている。


灰色の炎に焼かれながらも立つ少年。


その絵の下には、こう書かれている。


灰の聖痕。


だが、本当は違う。


剣は、礼だった。


物語は、子どもにも読ませる古い話だった。


傷は、スライムの火傷だった。


完全な嘘ではない。


けれど、本当のままでもない。


人々は、魔王を討った者にふさわしい理由を探した。


その理由は、後から整えられていった。


誰かの手によって。


誰かの願いによって。


誰かの不安を鎮めるために。


◆ 聖剣、神託、聖痕


聖剣は、最初から聖剣だったわけではない。


それは、病の鍛冶師夫婦が、礼として打ってくれた剣だった。


神託は、最初から神託だったわけではない。


それは、田舎神殿にあった小さな精霊たちの物語だった。


聖痕は、最初から聖痕だったわけではない。


それは、幼いロアンがスライムに焼かれた火傷だった。


けれど、魔王を討った後、人々はそれらを違う目で見た。


ただの剣では足りなかった。


ただの物語では足りなかった。


ただの傷では足りなかった。


魔王を討った者には、魔王を討つにふさわしい理由が必要だった。


だから、意味が加えられた。


剣は聖剣になった。


物語は神託になった。


火傷は聖痕になった。


完全な嘘ではなかった。


だが、本当のままでもなかった。


ロアンは何度も否定した。


ミルカは何度も訂正した。


エナは何度も説明した。


ガルドは、何度も「スライムも書け」と言った。


それでも、物語は進んでいく。


本人の言葉よりも、後の者たちが欲しがる形へ。


勇者の条件は、こうして少しずつ作られていった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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