表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の条件  作者: KEI
第36話 魔王が死んだ後の仕事

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
195/224

(三)勇者扱い

◆ 偉い人たち


やがて、人間側の使者が魔王城へ入った。


すぐに軍がなだれ込むわけではない。


まず入ってくるのは、指揮官、神官、高官、各国代表、そして通訳役の者たちだった。


彼らは緊張していた。


当然だった。


魔王城の中で、魔族の中枢と向かい合うのだ。


たとえ停戦の文面があっても、魔王の印章が添えられていても、罠でない保証はない。


彼らは魔王の死体を見た。


玉座の間の傷を見た。


ロアンたちを見た。


竜将、吸血侯、死霊宰相がまだそこにいることに、さらに緊張した。


しかし、戦闘は再開されない。


人間側の高官の一人が、震える声で言う。


「魔王は……本当に討たれたのか」


死霊宰相が答える。


「見ての通りだ」


沈黙が落ちる。


誰かが祈りの言葉を呟いた。


誰かが肩の力を抜いた。


誰かは、まだ剣から手を離していない。


その後、高官たちの視線がロアンたちに向いた。


ロアンは嫌な予感がした。


戦闘中とは別の種類の嫌な予感である。


エナが小さく言った。


「ロアンさん、顔が逃げたそうです」


「逃げてないよ」


ミルカが言う。


「逃げたそうではある」


ガルドが頷く。


「戦う時より逃げたそうだ」


ロアンは困った。


その直後、高官が問う。


「で、そなたらの中の誰が勇者なのだ?」


ロアンは瞬きをした。


ミルカ、エナ、ガルドは、ほとんど同時に答える。


「ロアン」


「ロアンです」


「ロアンだな」


ロアンは驚いて三人を見た。


「え? 違うよ。俺はみんなのサポート役だよ」


ミルカが呆れたように言う。


「いつも決めてたでしょ」


ロアンは本気で反論する。


「決めたのはミルカでしょ?」


ミルカは眉を上げる。


「私は、情報の断片をつないだだけ。あとはあんたの雑な方針を分けただけ」


「雑って」


「雑でしょ。『壁かな』とか『水を来させる』とか」


「でも、実際に壁だったし、水だったし」


「だから困るのよ」


ロアンは困ってエナを見る。


「エナも危ないときは全部教えてくれた」


エナは少し考えてから、静かに言う。


「はい。でも、ロアンが決めてくれたので分かりやすかったです」


「いや、俺は聞いただけで」


「聞いて、決めてくれました」


ロアンはさらに困ってガルドを見る。


「一番強くて一番戦ってたのはガルドだ」


ガルドはうなずく。


「そうだな。お前の言う通り、ちゃんと戦って、ちゃんと逃げたな。俺だけだったらずっと戦ってた」


ロアンは言葉を失った。


三人は本気で言っている。


自分だけが納得していない。


高官たちはそのやり取りを見て、何かを勝手に理解したような顔をした。


ロアンはさらに嫌な予感がした。


◆ 勇者扱い


高官の一人が、厳かに言った。


「では、ロアン殿が勇者ということか」


「違います」


ロアンは即答した。


「違うのか」


「違います」


「だが、魔王を討った」


「みんなでです」


「灰の一団を率いていた」


「率いていたというか、相談していました」


「各国を結んだ」


「走っただけです」


「魔王の前に立った」


「みんなで立ちました」


高官は困った。


ロアンも困った。


ミルカは横でため息をついている。


「もう諦めたら?」


「何を?」


「そういう扱いをされること」


「困るよ」


「私も困るけど、たぶん止まらないわよ」


「止めよう」


「何度も止めた結果がこれでしょ」


ロアンは言葉に詰まった。


エナが小さく言う。


「ロアンが勇者と呼ばれるなら、私たちも何か変な呼ばれ方をするのでしょうか」


ガルドが首をかしげる。


「剣士でいい」


ミルカが言う。


「後世がそんな素直なわけないでしょ」


「後世は面倒なのか」


「かなり面倒よ。たぶん」


ロアンが言う。


「まだ後世の話は早いよ」


ミルカはロアンを見る。


「あんた、今もう始まってるの分かってないでしょ」


「何が?」


「面倒な話」


「もう十分面倒だよ」


「これはまだ入口」


ロアンは本気で嫌そうな顔をした。


人間側の高官が、改めて言う。


「いずれ正式な記録を整える必要がある。魔王を討った者の名を残さねばならぬ」


ロアンは慌てる。


「灰の一団でお願いします」


「もちろん、灰の一団の名も残す」


「も、じゃなくて」


「その中心にロアン殿の名を」


「中心じゃなくて」


ミルカが小声で言う。


「中心だったって」


「ミルカまで」


エナが控えめに言う。


「中心でした」


ガルドも頷く。


「中心だったな」


ロアンは頭を抱えそうになった。


「魔王より手強い」


ミルカが言う。


「ある意味ね」


◆ 最初の合意


停戦協議は、その場で正式にまとまるわけではない。


魔王が死んだ。


だからすべてが終わる。


そんな簡単な話ではなかった。


だが、最初の合意は必要だった。


死霊宰相が言う。


「魔王軍中枢として、玉座の間周辺および城内主要区画の戦闘停止を命じる」


人間側の指揮官が答える。


「人間側も、魔王城への無秩序な突入を禁じる」


竜将は不満を隠さない。


吸血侯は静かに見ている。


ロアンは、これがどれほど危うい合意か分かる。


誰か一人が暴走すれば、また戦闘になる。


魔王軍側にも、納得していない者はいる。


人間側にも、魔王城を焼き払えと言う者はいるだろう。


だから最初に決めることは、勝利宣言ではない。


武器を下げる。


負傷者を運ぶ。


捕虜を殺さない。


伝令を通す。


死体を踏まない。


魔王城の結界を勝手に壊さない。


転移ゲート修理施設に触らない。


各国軍本隊の突入を待たせる。


それらは地味で、面倒で、英雄譚には見えない。


だが、やらなければまた死ぬ。


ロアンは思った。


魔王を倒すより、こっちの方が長いかもしれない。


ミルカがロアンの顔を見た。


「また何か考えてる」


「魔王を倒すより長そうだなって」


「正解」


「正解なのか」


「たぶんね」


ガルドが言う。


「魔王を斬ったら終わりじゃなかったのか」


ミルカが答える。


「終わるわけないでしょ」


「そうか」


「そうよ」


「では、まだ続くのか」


ロアンは頷いた。


「続くみたい」


エナが言う。


「でも、誰かがやらないといけません」


ロアンはうなずく。


「うん」


そして少し遅れて気づく。


また、自分たちがその「誰か」に入れられそうになっている。


ロアンはミルカを見た。


ミルカは目を逸らした。


「もう手遅れかもしれないわね」


「何が?」


「色々」



※第36話「魔王が死んだ後の仕事」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ