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勇者の条件  作者: KEI
第35話 ここまで来たからだ

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(二)四人で一つ

◆ 四人で一つ


魔王は、すぐに理解した。


ロアンには突出した聖性がない。


ミルカは大魔術師のような圧倒的な魔力量を持たない。


エナは中央神殿の聖女ではない。


ガルドは名門剣士の型を持たない。


だが、崩れない。


ロアンが位置を整える。


ミルカが魔力の流れをずらす。


エナが致命的な瞬間だけを避ける。


ガルドが最短で剣を入れる。


誰か一人を潰せば崩れるはずだった。


勇者戦なら、そうだった。


勇者を孤立させる。


治癒役を落とす。


魔術師を潰す。


側面の剣士を引き離す。


そうすれば、勇者は一人になる。


一人になった勇者は、倒せる。


だが、この四人は違う。


中心はある。


ロアンだ。


しかし、ロアンを殺せば終わるという単純な形ではない。


ロアンは絶対の柱ではない。


支点だ。


動く支点。


足りないところを埋める者。


判断をつなぐ者。


魔王は魔力の刃をミルカへ向ける。


ロアンが前へ出る。


魔王はその隙にエナを狙う。


ガルドが入る。


魔王がガルドを押さえようとすれば、ミルカが要を突く。


ミルカを潰そうとすれば、ロアンが視線をずらす。


エナは、どこを狙われても一瞬早く動く。


完璧ではない。


穴はある。


疲弊もしている。


だが、その穴を誰かが塞ぐ。


結界の外で、死霊宰相が低くつぶやいた。


「勇者単独ではない。相互補完……」


吸血侯は目を細める。


「名ではない。動きだ」


竜将は何も言わない。


ただ、ロアンたちを見ている。


なぜ、ここまで。


その答えが、戦いの形として目の前に出始めていた。


◆ 勇者殺しの型


魔王は、過去の勇者戦の記録を知っている。


勇者は前へ出る。


仲間は支える。


聖剣は魔王の魔力を裂く。


神官は勇者を癒す。


魔術師は後方から援護する。


剣士は側面を守る。


だから魔王は、勇者を孤立させるための戦い方を持っていた。


床の魔法陣が変わる。


四人の足元に、別々の光が走った。


ロアンとミルカの間。


ミルカとエナの間。


エナとガルドの間。


ガルドとロアンの間。


分断する線。


ミルカが気づく。


「離される!」


ロアンが叫ぶ。


「散らない!」


ガルドは前へ出かけて、踏みとどまった。


いつもの癖なら、強い敵へ飛び込む。


だが今は違う。


ロアンが散るなと言った。


エナがロアンの袖を掴む。


「右へ半歩!」


ロアンは理由を聞かずに動く。


直後、さっきまで立っていた場所に黒い槍が突き立つ。


ミルカが分断線の要を見つける。


「壊せない。ずらす」


魔王城の結界にやったのと同じ。


大きく壊さない。


要だけずらす。


ミルカの魔力が細く集まり、黒い線の一点へ刺さる。


分断線が少し曲がった。


完全には消えない。


だが、四人の間に細い道が残る。


ロアンはその道を使って位置を戻す。


ガルドが一歩下がる。


エナがミルカの背後へ寄る。


四人の距離が、ぎりぎりで保たれた。


魔王の分断は失敗する。


結界の外で、吸血侯が小さく言う。


「勇者を殺す型では、噛み合わぬ」


死霊宰相は黙っている。


だが、その言葉を否定しない。


竜将が低く呻く。


「なら、何の型だ」


誰も答えられなかった。


◆ なぜここまで


魔王は、戦いながら問う。


「勇者でもない者が、なぜここまで来た」


ロアンはすぐには答えられない。


魔王の攻撃が速い。


考える余裕などない。


ガルドが魔王の魔力刃を受け流し、腕を痺れさせる。


ミルカがその隙に魔法陣の端を焼き切る。


エナがガルドの手首に触れ、動く程度に癒す。


ロアンが前へ出る。


魔王の問いは続く。


「血筋もない」


ロアンは剣を振る。


「ないです」


「神託もない」


エナが息を飲む。


「ありません」


「聖剣もない」


ロアンは魔王の一撃を受け、吹き飛ばされかける。


「もらいものです」


「聖痕もない」


ミルカが魔法を収束させる。


「たぶん、ないです」


「天空も落としていない」


ガルドが短く言う。


「通ってない」


魔王は言う。


「ならば、なぜここまで来た」


ロアンは息を吸った。


答えは、格好よくない。


運命でもない。


神託でもない。


選ばれたからでもない。


けれど、嘘ではない。


「ここまで来たからだ」


玉座の間に、その言葉が落ちる。


結界の外で、竜将の表情が歪んだ。


それは答えになっているようで、なっていない。


魔王も一瞬、目を細めた。


ロアン自身も、それが十分な答えなのか分からない。


けれど、ロアンにとってはそれが一番近い。


ここまで来た。


それ以上でも、それ以下でもない。


◆ ここまで来たからだ


魔王は一瞬、言葉の意味を測りかねた。


ロアンは剣を握り直す。


言葉にしたことで、頭の中にこれまでの道が浮かんだ。


村を出た。


隣村まで行った。


洞窟の向こうへ知らせに行った。


エナと会った。


ガルドと会った。


灰の一団になった。


報酬を受け取ると決めた。


西の大国を出た。


海では、人魚ではなく海を知る人たちに頼った。


森では、導きの石を作り直した。


火山では、水の精霊王ではなく堤を切った。


空の目を避けた。


魔王城の排水路を抜けた。


戻る理由を何度も考えた。


それでも進んだ。


だから、今ここにいる。


ロアンは言う。


「最初からここに来る資格があったわけじゃありません」


魔王の攻撃を受けながら、続ける。


「でも、ここまで来る途中で、いろんな人に通してもらいました」


ミルカが術式を支える。


エナが傷を押さえる。


ガルドが魔王の足を止める。


ロアンは言う。


「だから、ここで戻ったら、全部途切れる」


その言葉に、ミルカが小さく笑った。


「戻る理由を考えなさいって言われた人の台詞じゃないわね」


ロアンは答える。


「考えたよ。戻る理由はある」


「じゃあ?」


「でも、進む理由も残ってる」


ミルカは一瞬だけ目を伏せ、それから杖を構え直した。


「本当に、面倒な答え」


「ごめん」


「謝らないで。今は、その面倒さが必要」


エナが小さく言う。


「進む理由が残っているなら、まだ帰れます」


ガルドが頷く。


「帰るなら、倒してからだな」


ロアンは剣を構える。


「うん。帰るために、進む」


結界の外で、死霊宰相が視線を落とす。


記録に残すべき言葉なのか。


残しても意味が変わってしまう言葉なのか。


判断がつかない。


ただ、目の前の四人は、その言葉で崩れなかった。



※第35話「ここまで来たからだ」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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