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勇者の条件  作者: KEI
第34話 勇者ではない者たち

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(三)条件なき者たち

◆ 条件がない


魔王は言う。


「貴様らには、条件がない」


ロアンは答えに詰まった。


条件。


またその言葉だ。


ミルカが横から言う。


「条件がないなら、帰っていいですか」


ロアンが小声で言う。


「ミルカ」


ミルカは魔王を見たまま続けた。


「冗談です。半分くらい」


ガルドが言う。


「半分は本気なのか」


「当然でしょ」


エナが小さく言う。


「帰れるなら帰りたいです」


その言葉は、玉座の間にはあまりにも普通だった。


勇者なら言わないかもしれない。


選ばれた英雄なら、もっと格好のいいことを言うのかもしれない。


だが、灰の一団はそうではない。


帰れるなら帰りたい。


けれど、帰れないからここにいる。


逃げたい。


けれど、逃げない。


それだけである。


魔王は四人を見ている。


ロアンは、その視線から逃げずに言った。


「条件は分かりません。でも、ここまで来ました」


魔王の魔力が、玉座の間に少しずつ満ち始める。


黒い炎が大きく揺れる。


柱の影が床を伸びる。


ミルカが杖を握った。


エナが息を飲んだ。


ガルドが半歩前へ出た。


魔王は静かに言う。


「灰の一団」


ロアンは頷く。


「はい」


「勇者ではない」


「はい」


「だが、魔王を止めに来た」


「はい」


「ならば」


魔王の声が、玉座の間に重く落ちた。


「貴様らの名乗りだけでは足りぬ」


ロアンの手が、剣の柄へかかる。


ミルカが杖を握る。


エナが小さく息を吸う。


ガルドが半歩前へ出る。


魔王は言った。


「証明してみせろ。条件なき者たちよ」


◆ いつも通り


玉座の間に、魔力が満ちていく。


床の古い魔法陣が、ゆっくりと浮かび上がる。


黒い線。


赤い光。


低い振動。


魔王の力は、近づいただけで肌を焼くようだった。


エナが小さく息を呑む。


ミルカが額に汗をにじませる。


ガルドは笑っていない。


ロアンは、三人を見た。


「散らない。離れすぎない。いつも通りで」


ミルカが顔をしかめる。


「いつも通りで魔王と戦うの、だいぶおかしいから」


ガルドが言う。


「でも、それ以外にできることもないだろ」


エナが、震えながらもうなずいた。


「大丈夫。たぶん、まだ帰れます」


ロアンは小さく笑った。


「じゃあ、帰ろう」


その言葉に、ミルカが一瞬だけ息を吐いた。


ガルドが剣を構える。


エナが手を胸の前で組む。


ロアンが剣を抜く。


その剣は、聖剣ではない。


少なくとも、ロアンはそう思っている。


田舎町の鍛冶屋から受け取った、使い込まれた剣である。


それでも、彼の手にはよく馴染んでいた。


魔王は、その剣を見た。


ロアンは剣を握り直す。


神託はない。


だが、ここまで運んできた言葉はある。


聖痕はない。


だが、傷はある。


勇者の旗はない。


だが、背後にはいくつもの道がある。


誰かが道を教えてくれた。


誰かが手紙を預けてくれた。


誰かが通してくれた。


誰かが記録を残してくれた。


誰かが待っていてくれた。


ロアンは勇者ではない。


ミルカも、エナも、ガルドも、勇者の仲間だと思ってここに立っているわけではない。


けれど、四人はここにいる。


玉座の前に。


魔王の前に。


魔王は右手を上げた。


玉座の間の魔法陣が、完全に開く。


黒い炎が揺れた。


ロアンたちは構える。


まだ、戦いは始まってすらいない。


それでも、この一瞬で分かった。


魔王は倒れない。


簡単には止まらない。


それでも、ここで下がれば何も終わらない。


ロアンは息を吸う。


怖い。


でも、怖いまま進む。


いつも通りに。


◆ 勇者ではない者たち


ロアンたちは、勇者ではなかった。


少なくとも、自分たちではそう思っていなかった。


聖剣はなかった。


ロアンの剣は、もらいものだった。


中央神殿の神託はなかった。


エナは田舎神殿の見習いだった。


聖痕はなかった。


傷ならあった。


火傷も、切り傷も、旅で増えた痣もあった。


けれど、それを神に選ばれた印だと思ったことはなかった。


天空要塞も攻略していない。


遠回りした。


落とす理由がなかったからだ。


魔王は条件を探していた。


ロアンたちは、その条件を持っていなかった。


だから、魔王の問いは少し変に聞こえた。


貴様は何者だ。


ロアンたちにとって、答えは難しくなかった。


アークガルム王国第八傭兵団第三遊撃部隊、灰の一団。


それが一番正確な答えだった。


けれど、魔王が聞きたかったのは、そういうことではなかったのだろう。


ロアンたちは勇者ではない。


ただ、ここまで来た。


誰かに道を教わり。


誰かに手紙を託され。


誰かに通してもらい。


誰かに背中を押され。


仲間と足りないところを補いながら。


ここまで来た。


だから、玉座の前に立っていた。


魔王軍の記録は、最後まで彼らを勇者一行と断定できなかった。


条件がなかったからである。


だが、条件がない者たちは、条件を満たした勇者と同じ場所に立っていた。


魔王は問うた。


「貴様は何者だ」


ロアンは、勇者とは答えなかった。


その答えを知る前に、戦いが始まろうとしていた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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