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勇者の条件  作者: KEI
第33話 魔王城へ

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(四)第三門下の排水路

◆ 引き返せる最後の場所


魔王城外縁の岩棚。


そこが、引き返せる最後の場所になった。


ここを越えれば、第三門下の排水路へ入る。


排水路へ入れば、戻るのは難しい。


ロアンは全員を見る。


「ここが最後です。戻るなら、ここ」


ミルカが言った。


「戻る理由なら山ほどあるわよ」


ガルドが言う。


「でも戻らないんだろ」


エナは少しだけ空を見た。


「この先、嫌な感じはします。でも、戻った方がいい感じではありません」


ロアンは静かに頷いた。


「じゃあ、行こう」


ミルカが短く息を吐く。


「確認。排水路へ入ったら正規通路には乗らない。結界柱は壊さない。要だけずらす。広い道にはすぐ入らない。右が嫌なら右に行かない」


ガルドが言う。


「壁は?」


「必要なら抜く」


ミルカが少し嫌そうに言った。


ガルドは頷く。


「分かった」


ロアンは岩棚の先を見る。


細い。


暗い。


風が強い。


けれど、そこはまだ戻れる。


戻れる場所で、進むと決める。


それが大事なのだと、ロアンは今なら少し分かる。


戻れないから進むのではない。


戻る場所を確かめた上で、進む。


エナがロアンの袖を軽く引いた。


「ロアンさん」


「はい」


「怖いです」


ロアンは少し驚き、それから頷いた。


「俺も怖いです」


ガルドが言う。


「俺も少し怖い」


ミルカが見る。


「少し?」


「かなりではない」


「そう」


ミルカは自分の札を握った。


「私は、かなり」


ガルドが意外そうに見る。


「そうなのか」


「怖くないと、間違えるから」


エナは少しだけ安心したように微笑んだ。


ロアンは言った。


「怖いまま行こう」


誰も反対しなかった。


◆ 第三門下の排水路


夜。


風が強い。


天空要塞の光は背後にある。


魔王城外縁の見張りは、正面橋と門を見ている。


灰の一団は、その下にある岩棚を進んだ。


排水路の入口は、岩と黒い石板で隠されていた。


普通なら開かない。


だが、古い補修記録には、水抜き用の開閉符号が残っていた。


ミルカが石板に手を当てる。


「完全には開けない。音が出る」


ロアンが聞く。


「通れるだけ?」


「通れるだけ」


ミルカは、小さな魔力を流した。


石板が、わずかに震える。


音を立てないように、ゆっくり、少しだけずれる。


人ひとりが横向きで入れる程度の隙間。


ガルドが見る。


「狭いな」


ミルカが言う。


「広げたら気づかれる」


ガルドは肩をすぼめた。


「剣が引っかかる」


ロアンが言う。


「先に俺が入る」


エナが止めた。


「少し待ってください」


エナは入口の奥を見た。


暗い。


水の匂い。


古い魔力。


そして、何かがいる気配。


「右側、何かいます」


ガルドが前へ出る。


「じゃあ俺が先だ」


ロアンは少し考えた。


排水路は狭い。


ガルドが詰まれば、後ろも詰まる。


だが、奥に何かいるなら、最初に受けられる者が必要だった。


「頼む」


ガルドは頷き、体を横にして隙間へ入った。


大きな体が、黒い石板の間をすり抜ける。


剣を先に入れ、肩を縮め、息を止める。


ミルカが小さく言った。


「本当に入った」


ロアンが答える。


「入ったね」


エナが囁く。


「抜けられるでしょうか」


奥から、ガルドの低い声がした。


「剣は抜けた。俺も抜ける」


ミルカが少し安心したように息を吐いた。


「剣が基準なんだ」


ロアンが続き、エナ、ミルカの順に入る。


全員が排水路へ入ると、ミルカは石板を少し戻した。


完全には閉じない。


だが、外からはただの影に見える。


「戻した?」


ロアンが聞く。


「通った跡を少し薄くしただけ」


「十分です」


排水路の中は暗かった。


魔王城の内部へ続く、望まれない道。


ロアンたちは、そこへ入った。


◆ 排水路の中


排水路は狭く、暗かった。


水はほとんど流れていない。


壁には古い魔術符号が残っている。


ところどころに補修された跡があった。


足元は滑る。


天井は低い。


ガルドは何度も肩をぶつけそうになった。


「狭い」


ミルカが後ろから言う。


「大声で言わない」


「小声でも狭い」


「それはそう」


ロアンは壁に手を添えて進んだ。


「ここ、魔族の兵は通らないって言ってたな」


ミルカが答える。


「通りたくない理由は分かる」


エナが小さく言う。


「でも、魔物はいます」


その直後、ぬるりとした影が水の残った溝から跳ねた。


小型の魔物だった。


目が退化し、口だけが大きい。


ガルドが音を立てずに斬る。


剣の戻りも小さい。


魔物は水音を立てる前に沈んだ。


ロアンが囁く。


「助かった」


ガルドが答える。


「狭いところ用に斬った」


ミルカが小さく言う。


「田舎道場、対応範囲が広い」


「だいたい役に立つ」


「今日は認める」


途中、道が二つに分かれた。


広い方は、管理用の通路らしい。


天井が少し高く、壁も補強されている。


狭い方は、水の跡が残る古い排水路だった。


ガルドが言う。


「広い方が楽だな」


ミルカは壁の擦れ跡を見る。


「広い方は、たぶん巡回が使う。楽な道は、向こうにも楽ってこと」


ロアンは狭い方を見る。


「じゃあ、狭い方」


ガルドが肩をすぼめる。


「また狭い道か」


エナが小さく言う。


「でも、今はそっちの方がましです」


「ましなら行く」


ガルドは素直に狭い方へ進んだ。


ミルカが呟く。


「かなり訓練されてきたわね」


ロアンは少し笑った。


排水路の奥へ進むにつれ、魔力の流れが強くなった。


城の中に入っている。


それは、まだ誰にも見つかっていないという意味でもあり、もう引き返しにくいという意味でもあった。



※第33話「魔王城へ」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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