表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の条件  作者: KEI
第32話 空の目を避けて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
178/224

(六)空は異常なし

◆ 空の目の外へ


夜明け前。


一行は、天空要塞の主要監視範囲から外れた。


遠くに要塞はまだ見える。


だが、見上げる位置が変わっている。


火鏡塔の光は背後にある。


鳥型魔物の巡回も、別の谷を見ている。


魔王城へ続く外縁山道が、薄い朝霧の中に見えた。


ロアンは立ち止まる。


「抜けた?」


ミルカはすぐには答えなかった。


空を見る。


岩肌を見る。


谷を見る。


要塞の位置を見る。


それから言う。


「まだ安全じゃない。でも、天空要塞を攻めずに越えたのは確か」


ガルドが要塞を振り返る。


「強かったな」


ミルカが言う。


「戦ってないのに?」


「戦ってたら死んでた」


エナが小さくうなずく。


「見つからないようにするだけで、こんなに怖いんですね」


ロアンも要塞を見た。


空の目は、ちゃんと見ていた。


鳥は飛び、火鏡塔は光り、斥候は巡っている。


それでも、四人は通った。


要塞を落としたわけではない。


要塞に勝ったわけでもない。


ただ、意味の外側を通った。


「空の目は、ちゃんと見ていた」


ロアンは言った。


「だから、見られないように通った」


ガルドが頷く。


「倒すより疲れた」


ミルカが答える。


「倒す方が疲れると思う」


「そうか」


「そう」


ガルドは少し考えた。


「では、倒さなくてよかった」


エナが微笑んだ。


「はい」


ロアンは前を見た。


魔王城へ続く外縁山道。


ここから先は、もう各国軍の支援はない。


火山拠点の軍も追いつけない。


天空要塞も背後にある。


前には魔王城。


ロアンは息を吸った。


「行こう」


◆ 要塞側の一瞬


天空要塞では、山岳斥候が西崖道の確認をしていた。


風で薄れた足跡。


小さな落石。


岩肌に残ったわずかな擦れ。


獣のものか、人のものか判別しづらい痕跡。


斥候はそれを見つけ、要塞へ戻った。


副官が問う。


「西崖道に異常か」


斥候は答えた。


「何か通った跡があります」


「軍か」


「違います。荷馬も車輪もありません。野営跡も火の跡もない。足跡も列になっていない。獣か、少数人員か……判別できません」


副官は記録板に印を付ける。


「勇者一行の可能性は?」


斥候は少し考えた。


「要塞へ向かった痕跡はありません。西崖道を越えたか、途中で戻ったか、獣が崩したか。魔王城方面へ向かった確証はありません」


「鳥は反応したか」


「一度、谷を旋回しています。しかし追跡行動には移っていません」


副官はしばらく考えた。


天空要塞は、広い範囲を監視している。


主要街道。


北尾根。


東谷。


西崖道。


火山側の移動。


魔王城方面の信号。


見るべきものは多い。


西崖道の小さな痕跡は、異常ではある。


だが、軍の動きではない。


勇者一行とも断定できない。


要塞攻撃の兆候でもない。


副官は言った。


「定期巡回を増やす。緊急信号は?」


斥候は首を振る。


「魔王城方面へ向かった確証はありません」


副官は頷いた。


「記録に残す」


斥候が下がる。


副官は火鏡塔の担当へ定時報告を命じた。


空は異常なし。


その報告は、嘘ではなかった。


少なくとも、空から見える範囲では。


◆ 魔王城外縁へ


灰の一団は、魔王城の外縁山道に入った。


ここから先は、もう別の問題だった。


天空要塞を越えたからといって、安全になるわけではない。


魔王城周辺には、外縁警戒がある。


魔物がいる。


見張りがいる。


結界がある。


岩場がある。


狭い道がある。


ロアンは地図を見る。


「ここから先は、別の問題だ」


ミルカが言う。


「転移ゲートはもう壊されている。魔王軍もすぐに大部隊を回せないはず」


「でも、いないわけじゃない」


「もちろん」


エナが前方を見た。


「ここから、嫌な感じが濃くなります」


ガルドが剣を確かめる。


「ようやく届く敵が出るか」


ロアンは静かに言う。


「まだ戦わない。魔王城へ着くまでは」


ガルドは剣から手を離した。


「分かった。届いても、まだ斬らない」


ミルカが言う。


「だいぶ成長した」


「褒められたか」


「褒めた」


「今日は多いな」


エナが小さく笑った。


ロアンは空を振り返った。


天空要塞は、まだ遠くに見える。


無傷だった。


火鏡塔も折れていない。


鳥も飛んでいる。


山岳斥候も動いている。


空の目は、生きている。


それでも、四人はここまで来た。


勇者ではないから。


軍ではないから。


旗も馬も火も持たなかったから。


要塞を倒しに行かなかったから。


ロアンは前を向いた。


魔王城へ。


そこへ行くために、これまで道をつないできた。


海。


森。


火山。


空。


全部を倒したわけではない。


全部を通った。


次は、魔王城だった。


◆ 空の目を避けて


天空要塞は落ちなかった。


火鏡塔は折れず、夜目の鴉は飛び、山岳斥候は谷を巡った。


空の目は生きていた。


それは、決して無能ではなかった。


軍が動けば見えた。


旗が立てば見えた。


馬が通れば見えた。


火を焚けば煙が上がった。


野営すれば灰が残った。


勇者一行が天空要塞へ向かえば、きっと見つかった。


過去の勇者は、だから天空要塞を攻略した。


けれど、灰の一団は勇者ではなかった。


軍を通す道を開くために来たのではなかった。


名を残すために砦を落とす必要もなかった。


彼らは、要塞へ向かわなかった。


旗を持たず、馬を使わず、火を焚かず、荷を捨てた。


道とは呼べない崖を進み、雲の下で止まり、鳥の影に息を潜めた。


空の目は、異常を完全に見逃したわけではない。


西崖道に、小さな痕跡は残った。


獣か。


猟師か。


はぐれ兵か。


少数人員か。


それは記録された。


だが、軍ではなかった。


勇者一行とも断定されなかった。


天空要塞は、無傷だった。


だから魔王城には、こう報告される。


空は異常なし。


その報告は、嘘ではなかった。


ただ、空から見えるものだけが、すべてではなかった。


灰の一団は、空の目を避けて進んだ。


そして、魔王城の外縁へ届いた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ