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勇者の条件  作者: KEI
第5話 導きは砕かれた

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(一)森は残す。道具を砕く

◆ 迷いの森の記録


魔王城、地下書庫。


中央神殿から奪った写本の一部が、黒い石の長卓に並べられていた。


焦げ跡の残る神託記録。


過去の勇者譚。


深森拠点に関する古い攻略記録。


神殿の写字生が命がけで守ろうとした紙片。


その中に、深森拠点の記録がある。


他の拠点に比べて、深森拠点に関する記述は曖昧だった。


地図は不完全。


経路は途切れている。


斥候の記録は、森の入口で終わっているものが多い。


森の名は、迷いの森。


記録には、こうある。


導きの石を持たぬ者、森に入るべからず。


導きの石なき者、森を出ることかなわず。


死霊宰相が、骨の指で記録の一節をなぞる。


「深森拠点の攻略記録は、ほぼすべて導きの石に触れています。過去の勇者一行は、導きの石を得て迷いの森を抜けたとされます」


竜将が腕を組んだ。


「森ごと焼けばよいのでは」


死霊宰相は首を横に振る。


「深森拠点は広大です。森全体を焼けば、こちらの拠点防衛にも影響が出ます。獣型魔物、植物型魔物、毒の霧、隠し道。すべて森を前提に配置されています」


吸血侯が補足する。


「森は敵でもありますが、防壁でもあります。焼けば、人間軍にも道ができます」


竜将は不満げに鼻を鳴らした。


「面倒な防壁だ」


「だからこそ有効なのです」


死霊宰相は、深森拠点の古い図を広げる。


図と呼ぶには、あまりに欠けている。


木々の記号。


崖。


沢。


何度も引き直された線。


そして、途中で途切れた道。


「過去の人間軍は、何度もここで道を失っています。拠点の存在は分かっていても、到達できない。到達できても戻れない。軍として動けば、行軍そのものが崩れる」


現魔王は記録を読んでいた。


声を荒げる者はいない。


魔王の目は、神託記録を読む時と同じだった。


信じているわけではない。


侮っているわけでもない。


ただ、敵が力を置いたものを、力として扱っている。


「ならば、森は残す」


現魔王は言った。


「道具を砕く」


死霊宰相が確認する。


「導きの石を探しますか」


「探す。導きの石が本当に必要なら、破壊すればよい」


竜将が満足げに笑う。


「石を砕くだけで勇者の道が消えるなら、安いものです」


現魔王は静かに返した。


「安いかどうかは、見つけてから判断する」


その言葉を、記録官が書き留めた。


深森拠点攻略補助具。


導きの石。


探索対象。


破壊候補。


◆ 村を殺すな


魔王城、作戦室。


東の辺境封鎖と中央神殿強襲の資料の横に、深森周辺の地図が広げられている。


森の入口に近い村々が、小さな印で示されていた。


いくつかは猟師の村。


いくつかは薬草を採る者たちの集落。


いくつかは、神殿からも王都からも遠い、ほとんど記録に残らない村だった。


その中の一つに、古い祠の記録がある。


吸血侯が報告する。


「森の周辺には、導きに関わる祠が複数あります。ただし、導きの石そのものが残っているかは不明です」


死霊宰相が続ける。


「過去の勇者譚では、森の入口の村で石を得たとあります」


竜将が言う。


「ならば村を制圧し、石を奪えばよい」


現魔王はうなずく。


「制圧はよい。だが殺すな」


竜将が、少しだけ顔をしかめる。


「またですか」


「まただ」


現魔王は、村の印を指す。


「村は生きていることに価値がある。祠、古い道具、言い伝え、祭事、森の入り方、過去に勇者へ協力した者の家系。村人は、それらを無自覚に持っている」


吸血侯が言う。


「村を焼けば、手に入るはずだった情報も失われる」


「そうだ」


小鬼隊長が控えめに口を開いた。


「では、威圧のみで」


「抵抗があれば制圧しろ。ただし、村長、神官、猟師、年寄りは特に生かせ。古いことを知っている者ほど価値がある」


記録官が書き留める。


深森周辺村落、制圧。


住民殺害、原則禁止。


祠、道具、口伝、祭事、重点調査。


竜将が低く問う。


「村人が石を隠した場合は」


「隠す者を見ろ」


「隠す者を?」


「石の価値を知る者だ。知らぬ者は隠せない。隠そうとする者は、石に近い」


吸血侯が薄く笑った。


「泳がせるのがお好きですね」


「泳がせるのではない。流れを見る」


現魔王は地図から目を離さない。


「我らは石を探す。村を滅ぼしに行くのではない」


それは慈悲ではない。


村を守るためではない。


村を情報源として残すための命令だった。


だからこそ、命令は徹底される。



※第5話「導きは砕かれた」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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