(七)届ける役
◆ 届ける役
北の賢者の照合印を得てから、灰の一団は各国へ密書を運んだ。
すべてを細かく語れば、いくら時間があっても足りない。
雪の残る北方小国では、魔術師団が最初、王国の密書を疑った。
だが、北の賢者の照合印と魔力符号を見て、顔色を変えた。
「これは本物だ」
彼らはすぐに、自国領内の候補地を調べ始めた。
山岳都市では、道そのものが敵だった。
崖道。
崩れた石段。
風の強い尾根。
ガルドは平然と先に立ち、現地の兵士たちが息を切らしてついてくる。
推定ゲートは廃砦の裏にあった。
ガルドは地形を見て言った。
「ここなら、逃げ道は二つ必要だ」
現地の隊長はすぐに頷いた。
「一つでは足りんか」
「崩れたら戻れない」
「分かった。掘らせる」
神殿都市では、エナが紹介状を使った。
医療施設を通じて、神官戦力と防護班へ情報が渡る。
エナは破壊方法の説明より先に、負傷者の搬送路を聞いた。
「壊す人だけでは足りません。壊した後に運ぶ人も必要です」
神官たちは顔を見合わせ、それから動いた。
東方商業国では、商人ギルドが相手だった。
彼らは疑り深かった。
王国の情報をそのまま信じる気はない。
だが、ミルカが街道とゲート候補地の関係を説明し、ロアンが荷馬車の通る道を指し、商人の一人が苦い顔で言った。
「この旧街道が使えなくなれば、商売にならない」
その一言で、場が変わった。
商人たちは正義では動かない。
だが、道が壊れるなら動く。
それでよかった。
国によって理由は違った。
軍事。
商売。
医療。
街道。
自国防衛。
神殿の義務。
どれも同じではない。
けれど、それぞれの理由が重なって、同じ時刻へ向かって動き始めた。
灰の一団は、どのゲートも壊さなかった。
ただ、届けた。
疑われた。
待たされた。
遠回りした。
説明した。
時には、追われる前に道を変えた。
時には、宿場で一晩足止めされた。
時には、エナの「なんとなく」で橋を避けた。
時には、ガルドが山道で荷を持った。
時には、ミルカが封書の写しをその場で燃やした。
時には、ロアンが「ここで渡す相手ではない」と判断して、半日待った。
そうして、密書は届いていった。
ある宿場で、ロアンは地図を見ながら言った。
「俺たち、どこか一つのゲートに行った方がいいのかな」
作戦時刻が近づいていた。
各国はそれぞれ準備を進めている。
でも、灰の一団はどの破壊部隊にも属していない。
ミルカは首を振った。
「私たちが一箇所に行っても、全部は変わらない。各国がそれぞれやるしかない」
ガルドが言う。
「壊すのは任せるのか」
「任せるしかない。私たちが全部はできない」
エナは静かに言った。
「届けるのが、今回の役目だったんですね」
ロアンは頷いた。
火も水も風も土も、一人では世界を作れない。
誰かが情報を集める。
誰かが届ける。
誰かが壊す。
誰かが運ぶ。
誰かが治す。
足りないなら、補えばいい。
「うん」
ロアンは言った。
「あとは、できる人たちがやる番だ」
※第28話「次の土地へ行け」は全十回です。
続きます。
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