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勇者の条件  作者: KEI
第4話 神託を焼く

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(四)恐れている。だから奪う

◆ 聖剣庫


聖剣庫の扉は厚かった。


鉄ではない。


石でもない。


聖句を刻んだ白い金属と、古い結界を重ねて作られている。


その前に、神殿騎士たちが最後の防衛線を作っていた。


竜将の副官と死霊術師が、扉の前に立つ。


神殿騎士が叫んだ。


「ここから先へは行かせない!」


副官が槍を構える。


死霊術師は扉を観察している。


「封印式、三重。外側は神殿式。内側は古い王家式。最奥に、勇者認定と連動した術式があります」


「破れるか」


「時間をかければ」


副官は神殿騎士たちを見る。


「では、時間を作る」


戦闘は短かった。


神殿騎士たちは勇敢だった。


だが、竜将の副官もまた強かった。


騎士たちが倒れ、扉の封印が破られる。


聖剣庫の中には、いくつもの剣が保管されていた。


古い剣。


祝福を受けた剣。


過去の勇者が触れたとされる剣。


その中央に、一本の剣が置かれている。


台座。


鞘。


刀身。


すべてに術式が刻まれていた。


神殿騎士が、倒れたまま叫ぶ。


「触れるな! 選ばれぬ者が触れれば、焼かれるぞ!」


死霊術師は慎重に近づく。


「魔力反応あり。封印式、三重。刀身そのものより、台座と鞘に術式が集中しています」


竜将の副官が言う。


「剣を折ればよいのでは」


死霊術師は首を振る。


「折れるかは不明。加えて、聖剣の本体が剣そのものとは限りません」


「どういう意味だ」


「勇者に力を与えるのが刀身ではなく、台座や鞘、あるいはそれらに刻まれた術式である可能性があります。剣は器に収められて初めて聖剣として機能しているのかもしれません」


死霊術師は、台座の縁に刻まれた細い文字を指でなぞった。


「台座を残せば、別の剣を聖剣にするかもしれない。鞘を残せば、折れた刀身を再生するかもしれない。術式を残せば、勇者認定の機能そのものが残るかもしれない」


副官が短く問う。


「では」


「台座、鞘、刀身。すべて奪います。抜け目は残しません」


聖剣は、黒い布で覆われた。


台座ごと外される。


神殿騎士が最後の力で突撃する。


竜将の副官がそれを受け止めた。


「なぜだ! お前たちは聖剣を恐れるのか!」


副官は答えた。


「恐れている。だから奪う」


聖剣は、神殿から消えた。


◆ 祭壇


大聖堂の中央祭壇。


そこには、勇者認定に用いられる祭具が置かれていた。


聖杯。


誓約の書。


光の印を押すための聖油。


歴代勇者の名が刻まれた石板。


吸血侯の配下が、それらをひとつずつ壊していく。


聖杯は割られた。


誓約の書は燃やされた。


聖油は床へこぼされた。


石板は砕かれた。


だが、神像は無傷だった。


下級神官が、呆然とつぶやく。


「なぜ神像を壊さない」


小鬼兵は答えられない。


そこへ吸血侯が通りかかった。


「命令にありません」


「命令……」


「我らは、勇者認定に関わる祭具を壊しに来ました。あなた方の神を砕きに来たのではありません」


下級神官は、何も言えなかった。


神像は残る。


祈りも残る。


聖堂も残る。


だが、勇者を正式に送り出す儀式は、そこで途切れた。


◆ 神託を焼いたつもりか


作戦終盤。


大神官は拘束されていた。


若い巫女は、水盤の前で泣いている。


吸血侯が、通信水晶を開いた。


現魔王の声が届く。


大神官は、顔を上げた。


「神託を焼いたつもりか」


現魔王の声は静かだった。


「神託の間は沈黙した。写本庫も焼いた。聖剣は奪った。勇者認定の祭具も砕いた」


「それで神の声を封じたと思うのか」


「神の声であろうと、人の言葉であろうと、勇者を導く機能は失われた」


大神官は笑った。


疲れた、悔しげな笑いだった。


「機能、か。魔王らしい言い方だ」


「否定はしない」


「神託は、場所にだけ宿るものではない」


通信水晶の向こうで、現魔王は沈黙した。


大神官は続ける。


「神の声は、石の間だけに降るものではない。水盤だけに映るものでもない。写本庫の棚だけに収まるものでもない」


現魔王が言う。


「ならば、残ったものも探す」


大神官は黙った。


現魔王の声が続く。


「知らぬことは罪ではない。知ろうとしないことは罪だ。我らは探す」


通信が切れた。


大神官は、破壊された神託の間を見る。


若い巫女が泣いている。


「泣くな」


大神官が言った。


「声が消えたわけではない」


巫女は涙の中で問う。


「では、どこに」


大神官は答えられなかった。


神託の間は沈黙している。


水盤は黒く濁っている。


碑文は砕けている。


天窓にはまだ影が残っている。


それでも大神官は、もう一度言った。


「消えたわけではない」


それが信仰なのか。


意地なのか。


記憶なのか。


巫女には、まだ分からなかった。



※第4話「神託を焼く」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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