(四)北の賢者宛て
◆ 北の賢者宛て
密書の中に、一通だけ別の封書があった。
厚い紙。
古い形式の封蝋。
宛名は、北方の魔術顧問。
セリアンはそれをミルカに渡した。
「これは、できれば途中で届けてください」
ミルカは封書を受け取り、眉を寄せる。
「北方の魔術顧問?」
「今はそう呼ばれています。かつては、北の賢者と呼ばれていました」
ミルカの手が止まった。
ロアンが気づく。
「ミルカ?」
ミルカは封書の宛名を見る。
「北の、賢者……」
セリアンが静かに問う。
「心当たりが?」
ミルカは少し言葉に詰まった。
「私の師匠は、北から来た旅の魔術師でした。名前は、ちゃんと聞いていません。でも、基礎ばかり教える人で」
「王都魔法学院の報告を読みました」
セリアンは言った。
「あなたの魔法は、北方系統の古い制御理論に近いそうです」
ミルカは小さく息を吸った。
「ただの基礎じゃ、なかったんですね」
「それは、本人に聞くべきです」
ミルカは封書を見つめた。
王都の魔法学院で感じた違和感。
自分の小さな魔法が、的を貫いたこと。
火を大きくするのではなく、必要な一点を抜くこと。
水を広げるのではなく、押し通すこと。
風を騒がせるのではなく、狙った場所だけを動かすこと。
土を盛るのではなく、必要な角度へ跳ね上げること。
それは、ただの田舎仕込みではなかったのかもしれない。
師匠は、何を教えていたのか。
なぜ名乗らなかったのか。
なぜ三年も村にいたのか。
ミルカは封書を胸元にしまった。
「届けます」
その声は、さっきより少し硬かった。
ロアンはそれを聞いて、何も言わなかった。
聞きたいことがあるなら、会いに行くしかない。
それは、ロアンにも分かることだった。
※第28話「次の土地へ行け」は全十回です。
続きます。
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