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勇者の条件  作者: KEI
第28話 次の土地へ行け

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(三)半分は

◆ 半分は


その夜、ロアンたちは王城の旧礼拝堂へ呼び出された。


使われなくなった小部屋だった。


壁には古い燭台があり、床には薄く埃が積もっている。


表向きの呼び出しではないことは、すぐに分かった。


ロアンは扉の前で足を止める。


「罠かな」


ミルカが周囲を見る。


「罠にしては、案内が丁寧」


ガルドが言う。


「罠なら斬ればいい」


「だから斬らないで」


エナが小声で言った。


「嫌な感じは、あまりしません」


ロアンは頷いて扉を開けた。


中にいたのは、セリアン参事官だった。


彼はいつものような整った礼をしなかった。


ただ、机の上に置いた封書の束を指で押さえている。


「来ていただき、ありがとうございます」


ロアンは慎重に聞いた。


「何の話ですか」


セリアンは余計な前置きをしなかった。


「君たちを、この国から出します」


ロアンは目を丸くした。


「出せるんですか」


「正確には、出たことにできる」


ミルカの目が鋭くなる。


「合法ですか」


セリアンは少しだけ間を置いた。


「半分は」


ガルドが聞く。


「もう半分は?」


セリアンは静かに言った。


「私の首が飛ぶかもしれない」


エナが慌てる。


「それは駄目なのでは」


「駄目です。だから今夜、正式な会議室ではなく、ここで話しています」


ロアンは机の上の封書を見る。


束がいくつもある。


どれにも封蝋が押されている。


王国の印。


軍務局の印。


諜報局の照合印。


神殿系の紹介印。


それぞれ違う。


ミルカは一歩近づいた。


「説明をお願いします」


セリアンは頷く。


「表向きの任務は、アークガルム王国第八傭兵団第三遊撃部隊による辺境巡回です。王国西部から北方、さらに国境付近の魔王軍残党を確認する任務」


ロアンは聞く。


「それで、国境を越えられるんですか」


「越えられるようにしてあります。魔王軍残党が国境を越えている可能性の調査、という名目で、複数の国境通過許可を付けました」


ミルカが言う。


「本当の任務は?」


セリアンは封書の束を示す。


「各国へ密書を届けることです」


エナが息をのむ。


ガルドは腕を組む。


セリアンは続けた。


「密書には、転移ゲート同時破壊に必要な最低限の情報が入っています。確認済み、推定、それぞれのゲート候補地。安定石の探し方。副石の処理。保守記録の焼却。破壊推奨時刻。失敗時の撤退条件。王国側の照合印。そして、各国が独自に確認すべき地点」


ロアンは思わず聞いた。


「俺たちが壊すんですか」


セリアンは首を振る。


「いいえ。壊すのは各国の部隊です。君たちがやるべきことは、届けることです」


ミルカが封書を見る。


「情報を届けるだけで、各国は動きますか」


「動くように、押収資料の写しと照合印を入れています。疑う国もあるでしょう。だが、確認すれば分かる。すでに各国にも、不審な魔力痕や魔物の移動記録はあるはずです」


エナが聞く。


「間に合いますか」


セリアンは少し黙った。


その沈黙が、答えの重さだった。


「間に合わせるために、君たちを出します」


部屋の空気が重くなる。


これは、王国上層部の正式な命令ではない。


受ければ、王国の意向に反するかもしれない。


だが、受けなければ、転移ゲート網は残る。


魔王軍はまた各地へ現れる。


ロアンは封書を見た。


「これ、俺たちが勝手に出たことになりますか」


「書類上は、任務で出たことになります」


ミルカが聞く。


「でも、上層部が後から否認する可能性は?」


「あります」


ガルドが言う。


「なら、危ないな」


セリアンはうなずく。


「危険です。だから断ってもいい」


エナは密書を見た。


「断ったら、困る人が増えますか」


セリアンは答えなかった。


答えないことが答えだった。


ロアンは深く息を吐いた。


この王都は安全だ。


食事も寝床もある。


剣も直る。


薬もある。


けれど、その間にも、他の土地では魔物が出る。


転移ゲートが動く。


誰かが道を失う。


誰かが戻れなくなる。


ロアンは言った。


「分かりました。届けます」


ミルカがロアンを見る。


「決めるの早くない?」


「遅くしたら、もっと出られなくなる気がする」


ガルドは頷いた。


「なら行こう」


エナも言う。


「行きましょう」


ミルカはため息をついた。


「……行くなら、密書の分け方と失敗時の処理を決める」


セリアンが少しだけ笑う。


「頼もしいですね」


「頼もしいというより、必要です」


ミルカは机の上の封書を見た。


「一つの袋に全部入れるのは駄目。国ごとに分けます。写しと要約も分ける。全体地図は持たない。敵に取られた時、全部が漏れる」


セリアンは驚いたように瞬きした。


「そこまで考えますか」


「捕まらない前提だけで動くと危ない」


ガルドが普通に言う。


「捕まる前提なのか」


「捕まらないために考えるの」


ロアンがうなずく。


「戻る条件と同じだな」


エナは小さく言った。


「失敗した時のことを考えておくんですね」


ミルカは頷く。


「失敗した後に考えると遅いから」


それから、密書は分けられた。


ロアンは通行手形と王国印の任務書。


ミルカは転移ゲートの構造と破壊方法。


エナは医療施設宛て、神殿系の紹介状を兼ねた密書。


ガルドは軍務系の封書と、武官宛ての証明書。


誰か一人が失っても、全部は失わないように。


誰か一人が止められても、残りが進めるように。


それは、戦いではない。


だが、たしかに危険な仕事だった。



※第28話「次の土地へ行け」は全十回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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