(二)道に出てこそ
◆ 道に出てこそ
同じ頃、セリアン参事官は王城の資料室にいた。
窓の少ない部屋だった。
机の上には、転移ゲートに関する資料が広がっている。
西側拠点から押収された保守記録。
王国内の確定ゲート位置。
他国側の推定ゲート位置。
安定石と副石の構造。
起動周期。
保守記録を燃やす必要性。
同時破壊の推奨時刻。
各国へ渡すべき最低限の情報。
王国が伏せたがっている調査網の情報。
セリアンは、その全てを何度も読み返していた。
王国だけが自国領内のゲートを潰しても、意味は薄い。
他国領のゲートが残れば、魔王軍はそこから再展開する。
一つずつ潰せば、魔王軍は残りを閉じるか、守りを固める。
時間をかければ、ゲート網を組み替えられるかもしれない。
やるなら、同時に。
各国が、それぞれの場所で。
そのためには、知らせなければならない。
だが、王国上層部は迷っていた。
情報を渡すべきか。
調査網を隠すべきか。
自国の手柄を優先するべきか。
灰の一団を外へ出すべきか。
会議は続いていた。
結論は出ない。
結論が出ない間に、魔王軍は動く。
セリアンは地図の上に置かれた石を見た。
赤。
黒。
白。
青。
確定。
魔力痕。
推定。
証言のみ。
どれも、紙の上では小さな点にすぎない。
だが、その点の下には土地がある。
村がある。
街道がある。
神殿がある。
人がいる。
彼は静かに息を吐いた。
正規軍は国境を越えられない。
密偵は信用されにくい。
商人は情報の重さに耐えられない。
だが、灰の一団なら違う。
彼らは軍ではない。
それでいて、王国の正式な通行手形を持たせられる。
各地で人助けの噂があり、完全な密偵より警戒されにくい。
危険な道へ行き、戻ってくる力がある。
現地の人間に話を聞く力がある。
道を探し、橋を守り、荷を通し、怪我人を戻すことを知っている。
セリアンは小さく言った。
「彼らは、道に出てこそ意味がある」
その言葉は、誰に聞かせるものでもなかった。
けれど、言葉にしてしまえば、もう戻れなかった。
彼は机の引き出しを開ける。
そこには、まだ正式に出されていない通行手形の束があった。
王国の照合印。
辺境巡回任務書。
各国へ宛てた密書。
そして、北方の魔術顧問へ宛てた封書。
セリアンはそれらを一つずつ確認した。
全てを王の承認で出すことはできない。
高官会議は止まっている。
だが、止まれば失われるものがある。
彼は決めた。
灰の一団を、出す。
※第28話「次の土地へ行け」は全十回です。
続きます。
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