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勇者の条件  作者: KEI
第27話 出られない国

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(八)ゲートを壊すには

◆ ゲートを壊すには


王国では、転送ゲートの分析が進んでいた。


灰の一団も、一部の会議に呼ばれることがあった。


ただし、中心は王国の軍、諜報局、魔術院である。


大きな地図の上に、石が置かれている。


赤い石は確認済み。


黒い石は魔力痕あり。


白い石は旧街道や廃砦からの推定。


青い石は他国側の証言のみ。


ミルカはその地図を見て、すぐに言った。


「確定と推定が混ざっています」


諜報官が頷く。


「その通りです。だから全てを同時に叩くには、各国側の確認が必要になる」


ロアンが聞く。


「王国軍だけでは無理なんですか」


軍務官が答える。


「無理だ。距離がありすぎる。国境もある。何より、他国領へ勝手に軍を入れるわけにはいかん」


エナが地図を見る。


「でも、そこにも困っている人がいるんですよね」


誰もすぐには答えなかった。


魔術院長が別の資料を広げる。


「押収資料から、破壊方法も分かり始めています。ただし、ただ壊せばいいわけではありません」


ミルカが顔を上げる。


「中核がある?」


魔術院長は少し驚いたように見る。


「その通りです。転送ゲートには中核となる安定石がある。それを壊さなければ、停止しても再起動される」


資料には、魔王軍の保守手順が書かれていた。


外側の石柱を壊しただけでは足りない。


魔法陣を削っただけでも、保守部隊が来れば直される。


安定石を見つける。


起動周期の直前、または直後を狙う。


魔力の逆流を避ける。


副石を割る。


保守記録を燃やす。


符号石を持ち去る。


ロアンは眉をひそめた。


「かなり面倒ですね」


諜報官が答える。


「面倒です。しかも、一つずつ壊せば、魔王軍は残りを閉じるか、守りを固める」


ミルカが言う。


「だから同時に」


「そうです。やるなら、同時にやる必要があります」


地図の上の石が、急に重く見えた。


一つではない。


一国ではない。


同じ時に、複数の場所で動かなければならない。


ロアンは地図を見る。


「これを、各国に知らせる必要があるんですね」


諜報官は頷いた。


「本来は」


その言葉に、ミルカは引っかかった。


本来は。


つまり、そう簡単には知らせないということだ。


◆ 王国の迷い


高官たちの会議では、別の話が進んでいた。


情報を他国へ渡すべきか。


王国領内のゲートを先に潰すべきか。


他国に王国の調査網を知られてよいのか。


灰の一団を外へ出してよいのか。


意見はまとまらなかった。


諜報局長が言う。


「情報を渡せば、他国に王国の調査網も知られる」


財務官が言う。


「他国の利益になるだけではないか」


軍務卿が答える。


「王国領内のゲートを先に潰すべきだ」


若い文官が、控えめに口を開いた。


「各国へ情報を届けるなら、灰の一団が適任では」


会議室の空気がわずかに変わる。


軍務卿が眉をひそめた。


「彼らを出すのか」


文官は続けた。


「彼らは軍ではありません。商人でも密偵でもない。各地で人助けの実績があり、警戒されにくい。危険な道を行って戻る能力もある」


諜報局長が言った。


「だからこそ、出すべきではない」


文官は黙った。


その言葉には、本音があった。


灰の一団は使える。


だからこそ、自国から出したくない。


会議は結論を出さなかった。


出さないことで、灰の一団は王都に残る。


許可が出ない。


任務が決まらない。


書類が整わない。


そのまま時間だけが過ぎる。


会議室の隅で、ひとりの文官が資料を閉じた。


名を、セリアン参事官という。


外務と諜報の間で書類を扱う、目立たない男だった。


彼は高官ほどの権限はない。


だが、情報の流れを見ていた。


西側拠点の押収資料。


魔力痕の報告。


商人の噂。


捕虜の証言。


旧街道図。


廃砦の記録。


そして、灰の一団の報告書。


それらを重ねると、一つのことが見えてくる。


王国だけが助かる道などない。


王国が情報を抱え込めば、一時的には有利になるかもしれない。


けれど、他国のゲートが残れば、魔王軍は別の場所から再展開する。


道はつながっている。


一国の中だけで、道を断つことはできない。


セリアンは窓の外を見た。


王都の中庭で、ガルドが兵士たちに囲まれて稽古をしている。


少し離れたところでは、エナが怪我した兵士の手当てをしている。


ミルカは魔法学院の若手に何かを聞かれ、困った顔で説明している。


ロアンは補給係と地図を見ながら、荷馬車の通れる道を指でなぞっている。


セリアンは小さく呟いた。


「この者たちは、ここに置いておくべきではない」



※第27話「出られない国」は全九回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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