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勇者の条件  作者: KEI
第27話 出られない国

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(七)小さいのに抜ける

◆ 小さいのに抜ける


学院から戻ったミルカは、いつもより口数が少なかった。


宿舎の部屋で、ロアンが気づいた。


「ミルカ、魔法学院どうだった?」


ミルカは少し遅れて答えた。


「派手だった」


「やっぱりすごかった?」


「すごかった。けど……少し変だった」


「変?」


ミルカは椅子に座り、指先を見た。


「皆の魔法は大きいの。でも、広がる。私の魔法は小さい。でも、抜ける」


ロアンは首をかしげる。


「抜ける?」


「火は燃やすんじゃなくて、突き抜ける。水は流すんじゃなくて、吹き飛ばす。風は散らすんじゃなくて、狙ったところだけ動かす。土は置くんじゃなくて、跳ね上げる」


ガルドが言う。


「強いんじゃないか」


ロアンもうなずく。


「俺もそう思った」


ミルカは顔をしかめた。


「強い、で済ませていいのか分からない」


エナが静かに聞く。


「怖いんですか」


ミルカは少し黙った。


それから、小さく頷く。


「少し」


ロアンは驚いた。


ミルカが怖いと言うのは珍しい。


ミルカは続けた。


「私、田舎で基礎を習っただけだと思ってた。でも、学院の基礎と違う気がする」


ロアンは言った。


「先生に聞けたらいいのにな」


ミルカは静かにうなずいた。


「うん。聞きたい」


ガルドは腕を組む。


「北から来たんだろう。北へ行けば会えるのか」


ミルカは首を横に振った。


「分からない。名前も知らない」


エナが言う。


「でも、会いたいんですね」


「うん」


ミルカは短く答えた。


その声には、不安と、少しの怒りと、確かめたい気持ちが混ざっていた。


自分が普通だと思っていたものが、普通ではなかった。


それはガルドが、自分の剣を外で知った時に少し似ていた。


ロアンはそう思った。


けれど、ミルカの場合はもっと静かで、もっと深い場所に刺さっているように見えた。


◆ それぞれの値段


王都での留め置き中、四人はそれぞれ評価されていった。


ロアンは地図と報告書を読み、街道や村の位置関係を見て言った。


「ここが塞がると、次はこっちの村が困ります」


軍務官が驚く。


「君は軍学を学んだのか」


ロアンは首を振る。


「荷馬車が通れないと困る場所を見ているだけです」


軍務官は地図を見直した。


実際、その指摘は正しかった。


エナは医療施設で怪我人を見て、治療の順番を自然に選んだ。


神殿系の治療師が聞く。


「なぜその者を先に?」


エナは少し困って答える。


「今は平気そうに見えるけど、少し嫌な感じがします」


その後、その患者の容体が急に悪化しかけ、エナの判断が正しかったと分かった。


ガルドは兵士たちとの稽古で、相手の剣を受けずに崩した。


兵士が息を切らして聞く。


「なぜそこで入れる」


ガルドは答える。


「右足が浮いていた」


説明になっていない。


だが、実際にその通りだった。


ミルカは魔法学院で、派手ではないが桁違いの制御を見せた。


王国側の記録は増えていく。


ロアン。


現地情報と街道感覚。


ミルカ。


異常な魔力制御。


エナ。


癒やしと危険察知。


ガルド。


単独突破力。


四人それぞれが、別々の値段をつけられていく。


そのことに、四人は気づいていなかった。


気づいていたのは、王国の方だった。


この者たちは手放すべきではない。


その考えが、会議の中で少しずつ固まっていった。


一方で、街道では別のことが起きていた。


灰の一団の噂が止まったのだ。


以前は、灰色の外套の四人組がどこそこに現れた、という話がぽつぽつ流れていた。


荷馬車を助けた。


魔物を追い払った。


橋を守った。


怪我人を助けた。


鉱山道から人を逃がした。


だが、王都に入って以降、その噂が途絶えた。


街道の人々から見れば、灰の一団は急に消えたように見えた。


厚遇されている。


評価されている。


正式な名前も与えられた。


それなのに、道からは消えている。


ロアンたちはまだ知らない。


噂が止まることもまた、彼らを囲う壁の一つになっていることを。



※第27話「出られない国」は全九回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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