(六)魔法学院
◆ 魔法学院
王都に留め置かれている間、ミルカは魔法学院へ行くことになった。
表向きは見学。
実際には、王国側がミルカの力量を測る意味もあった。
ミルカはそれを分かっていた。
分かっていたが、少し緊張していた。
自分は田舎の村で、旅の魔術師に基礎を教わっただけだ。
王都の魔法学院には、もっと体系立った魔法があるはずだった。
広い訓練場では、生徒たちが魔法を使っていた。
炎が大きく燃え上がる。
水が広く広がる。
風が砂埃を巻き上げる。
土壁が高く立つ。
見物していた貴族の子弟たちが拍手する。
ミルカはその光景を見て、小さく息を吐いた。
「やっぱり、中央の魔法は派手ね」
案内役の教師が笑う。
「あなたも実演してみますか。灰の一団の魔術師殿」
ミルカは少し困った。
「私は、あまり派手なものは……」
「基礎で構いません」
基礎。
それならできる。
師匠に三年間、嫌というほどやらされた。
魔力を細く通す。
形を崩さない。
温度を安定させる。
流れを乱さない。
必要な場所へ、必要な量だけ置く。
大きくするな。
広げるな。
散らすな。
余らせるな。
失敗したら最初から。
それが、ミルカの知っている基礎だった。
ミルカは訓練用の的を見る。
まず、火。
大きな炎ではない。
指先ほどの光が、的へまっすぐ走った。
見た目は小さい。
だが、的の中心に細い穴が空いた。
燃え広がらない。
焦げ跡も少ない。
ただ、突き抜けている。
訓練場が静かになった。
次に、水。
水流ではない。
細い水の線が飛ぶ。
見た目は地味だった。
しかし、石の的が横から弾かれ、台座ごとずれた。
流したのではない。
水圧で撃ち抜いた。
次に、風。
突風ではない。
砂埃もほとんど立たない。
ただ、訓練用の吊り的だけが鋭く揺れ、支柱の留め具が外れた。
最後に、土。
巨大な壁は立てない。
足元から小さな土の板が跳ね上がり、教師が投げた訓練弾を正確に弾いた。
防ぐために置いた壁ではない。
必要な瞬間、必要な角度へ跳ね上げた壁だった。
生徒の一人が言った。
「……地味だな」
別の生徒が、的を見て言う。
「でも、威力が違う」
教師も黙っていた。
ミルカは困惑していた。
自分の魔法は、派手ではない。
だから中央の魔法に比べれば、未熟なのだと思っていた。
でも、結果だけを見ると違う。
威力。
正確さ。
収束。
無駄のなさ。
教師が慎重に問う。
「その制御は、どこで?」
ミルカは答えた。
「西の辺境の村で、旅の魔術師に」
「名は?」
ミルカは少し考えた。
師匠は、はっきり名乗らなかった。
村ではただ、先生と呼ばれていた。
「分かりません。ただ、北の方から来た人だと」
教師の表情が、わずかに変わった。
だが、それ以上は言わなかった。
ミルカは初めて、自分の魔法に違和感を持った。
自分は何を教わったのか。
あれは、本当に普通の基礎だったのか。
そして、師匠はいったい何者だったのか。
※第27話「出られない国」は全九回です。
続きます。
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