(一)西側拠点のあと
◆ 西側拠点のあと
アークガルム王国の西側領域で、魔王軍の小拠点が落ちた。
その知らせは、近隣の村々へすぐに広まった。
西の街道を塞いでいた魔物の巡回が薄くなり、荷馬車が少しずつ動き始める。
避難していた村人たちが、焼けた倉庫や壊れた柵を見に戻る。
王国軍の旗が、拠点のあった丘に立てられる。
それは勝利だった。
ただし、灰の一団が単独で拠点を落としたわけではない。
主力は、アークガルム王国軍だった。
盾兵。
弓兵。
魔術兵。
工兵。
自警団。
傭兵部隊。
荷運び。
治療係。
伝令。
多くの人間が動き、準備し、道を整え、合図を合わせて、ようやく拠点は破壊された。
ロアンたちがしたのは、別のことだった。
現地の人から昔の薪道を聞き出す。
魔物の巡回がずれる時間を確かめる。
見張り台から死角になる斜面を探す。
怪我人を下げる道を作る。
逃げ遅れた村人の居場所を確認する。
魔物が嫌がる煙の流れを読む。
拠点に突入する前に、兵が動ける形へ状況を整える。
ロアンは丘の下から、王国軍の兵士たちが拠点跡を片づけているのを見ていた。
「俺たち、拠点を落としたって言われるほど前に出てないよな」
隣でミルカが答える。
「でも、私たちが抜け道を見つけなかったら突入時刻がずれていた」
「そうかな」
「そう。荷馬車は通れないけど、兵が二人ずつなら通れる道だった。あれがなかったら、正面の柵を壊すしかなかった」
エナは少し疲れた顔で、治療用の布を畳んでいた。
「怪我人も多かったです」
ガルドは丘の上を見ている。
「前に出た兵たちは強かった」
ロアンはうなずいた。
「国の軍って、やっぱり大きいな」
盾が並ぶ。
槍が進む。
弓が飛ぶ。
魔術兵が合図に合わせて火と風を使う。
工兵が柵を外し、道を開く。
一人一人が何をしているのか、全部は分からない。
けれど、その大きさだけは分かった。
灰の一団は強くなってきた。
依頼も受けるようになった。
報酬ももらうようになった。
それでも、国の軍は違う。
ロアンはそう思った。
そして、その国の軍が、灰の一団を見る目を変え始めていることには、まだ気づいていなかった。
※第27話「出られない国」は全九回です。
続きます。
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