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勇者の条件  作者: KEI
第26話 報酬はもらう

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(一)足りない帳簿

◆ 足りない帳簿


灰の一団と呼ばれ始めてから、依頼は増えた。


荷馬車の護衛。


橋の下の魔物退治。


森に入った子どもの捜索。


鉱山道からの撤退支援。


街道脇の小鬼退治。


怪我人の手当て。


崩れかけた小屋から荷を出す手伝い。


そういう小さな仕事が、少しずつ重なっていった。


評判は悪くない。


むしろ、よかった。


灰色の外套を着た四人組は、危ない道にも行く。


魔物も追い払う。


怪我人も見てくれる。


話を聞いてくれる。


それでいて、騎士団ほど大げさではない。


神殿ほど遠くもない。


地方役人ほど手続きも多くない。


頼みやすい。


それが、よくなかった。


「困ってたし、仕方ないだろ」


宿場の小さな部屋で、ロアンはそう言った。


テーブルの上には、ミルカの帳簿が開かれている。


銅貨の袋。


保存食の残り。


薬草の包み。


針と糸。


ほつれた外套。


欠けかけた砥石。


それらが、ずらりと並べられていた。


ミルカは帳簿を指で叩いた。


「仕方ないを五回続けた結果がこれ」


ロアンは帳簿をのぞき込む。


「……少ない?」


「少ないじゃなくて、足りない」


エナが心配そうに聞いた。


「宿に泊まれないくらいですか?」


「宿どころか、薬草を買い足せない」


エナは薬草の包みを見た。


「それは困ります」


ガルドも、自分の剣を見る。


「砥石は?」


ミルカは言った。


「買うと食費が削れる」


ガルドは真顔になった。


「それはまずいな」


ロアンはようやく、ことの重さを理解した。


「砥石で?」


ミルカが見る。


「食費でも分かって」


「分かってる」


「本当に?」


「今、分かってきた」


「遅い」


エナが小さく言った。


「癒やしなら、少しは薬草を節約できます」


ミルカは即座に返した。


「エナの体力は薬草より高い」


エナはきょとんとした。


「高いんですか」


「高い。替えがない」


ガルドがうなずく。


「確かに、エナは買えないな」


ロアンが言う。


「言い方」


エナは自分の手を見る。


癒やしは便利な力ではない。


使えば、体力も気力も削れる。


鍛冶師を一週間かけて癒やした時、それはもう分かっていた。


分かっていたはずなのに、目の前に怪我人がいると、つい手が伸びる。


「でも、怪我している人を見ると」


「分かってる」


ミルカの声は、少しだけ柔らかくなった。


「分かってる。でも、エナが倒れたら、その次の人は助けられない」


エナは黙った。


ロアンも黙った。


ガルドは砥石と剣を見比べている。


それから言った。


「剣が欠けたら、戦えない」


ミルカは頷く。


「そう」


「靴が破れたら、歩けない」


「そう」


「腹が減ったら?」


「動けない」


ガルドは納得したように腕を組んだ。


「旅は思ったより、いろいろ要るな」


ロアンが言う。


「俺も最初にそう思った」


ミルカがすぐに言う。


「今も思って」


「はい」


ミルカは帳簿を閉じなかった。


閉じたら、現実が少し遠くなるからだ。


「食料。宿代。薬草。包帯。油紙。外套の補修。靴の修理。剣の手入れ。魔術用の小道具。地図の写し。情報料。馬車代」


ロアンは一つずつ聞くたび、顔色を変えた。


「旅って、高いな」


「前にも言った。旅は帳簿」


「旅は道と荷と戻ることだと思ってた」


「帳簿も入れて」


エナが真面目に言った。


「薪と米も必要です」


ミルカは頷く。


「神殿でも薪と米は必要。旅ならなおさら」


ガルドが言う。


「豆もいる」


「豆もいる」


ミルカはそこだけ否定しなかった。


ロアンは帳簿を見る。


数字は少ない。


それでも、これまで助けた人たちの顔を思い出すと、間違っていたとは思えなかった。


困っていた。


放っておけなかった。


でも、このままでは次へ行けない。


次に困っている人のところへたどり着けない。


それもまた、間違いなく現実だった。



※第25話「報酬はもらう」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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