(七)鉱山道の撤退
◆ 鉱山道の撤退
その翌日、彼らはもう一つ依頼を受けることになった。
小さな鉱山道で、作業員が魔物に追われて戻れなくなっているという話だった。
鉱山といっても、大きなものではない。
村の近くにある古い採掘道で、今は石材と少しの鉱石を掘っている。
そこに小型の魔物が入り込んだ。
作業員が奥に取り残されている。
村の者は、ロアンたちを見つけるなり言った。
「灰の一団だろ。頼む、手を貸してくれ」
ロアンは少し反応が遅れた。
「ええと」
ミルカが小声で言う。
「たぶん私たち」
「慣れないな」
「慣れる前に条件」
ミルカは依頼人へ向き直った。
「目的は討伐ですか、救出ですか」
依頼人は戸惑う。
「どっちもできるなら」
ミルカは首を横に振る。
「優先順位です」
ロアンが続けた。
「作業員を外へ出すのが先です。魔物を全部倒すのは、その後で考えます」
依頼人は頷いた。
「人が先だ」
鉱山道は暗く、湿っていた。
木の支柱がところどころ古い。
奥から、金属がぶつかる音と、人の叫び声が聞こえる。
ミルカは支柱を見た。
「崩れそうなところがある」
ガルドは剣を抜く。
「前は俺が行く」
エナは薬箱を抱え直す。
「怪我人がいたら、動ける状態にします」
ロアンは深く息を吸った。
「荷は捨てる判断をする。人が先。道具は後」
坑道に入る。
魔物は小型だった。
だが、場所が悪い。
狭い坑道では、逃げ場が少ない。
ガルドは前を切り開いた。
無理に斬り進むのではなく、作業員への道を開ける。
ミルカは崩れそうな支柱の周囲に土を寄せ、一時的に固定した。
エナは倒れていた作業員の足を見る。
「動けます。痛みはありますが、骨はたぶん大丈夫です」
ロアンは奥に残っている作業員に声をかけた。
「出ます!」
作業員の一人が工具箱を抱えていた。
「これを持っていかないと」
ロアンは即座に言った。
「道具は置いていきます」
作業員は怒鳴る。
「これがないと仕事にならない!」
ロアンは一歩近づいた。
「持って出られたら持ちます。でも、持って死んだら仕事どころじゃない」
作業員は言葉を詰まらせた。
ロアンは工具箱の中から、小さな袋だけを抜き取った。
「これ、替えがきかないものですか」
「測り針と印石だ」
「これは持ちます。箱は置く」
ガルドが前から言う。
「来るぞ」
魔物が曲がり角から出てくる。
ガルドが止める。
剣は狭い坑道でも乱れない。
大きく振れない場所なら、必要な分だけ動く。
戻りが速い。
ロアンは作業員を順に出した。
「走らない。支柱に触らない。エナさんの後ろについて」
エナが負傷者を支える。
ミルカが最後に支柱を確認する。
「長くは持たない」
「全員出た?」
ロアンが聞く。
「出た!」
坑道の外へ出た瞬間、奥で鈍い音がした。
一部が崩れたのだ。
作業員たちは青い顔で振り返った。
道具の一部は失われた。
けれど、人は全員戻った。
依頼人は、地面に座り込んだ作業員たちを見て、深く頭を下げた。
「助かった」
ロアンは息を吐いた。
「戻れたなら、よかった」
ミルカが小声で言う。
「報酬」
ロアンは小声で返す。
「今?」
「今。救出依頼として受けた」
「はい」
依頼人は多くは払えなかった。
それでも、銅貨と保存食、そして古いが丈夫な革紐を渡してくれた。
ミルカは革紐を見て、かなり満足そうだった。
「これは良いです」
ロアンは笑った。
「銅貨より?」
「今の荷なら、銅貨よりすぐ役に立つ」
ガルドが頷く。
「紐は大事だ」
エナも頷く。
「薬箱にも使えます」
ロアンは革紐を見ながら言った。
「灰の一団、報酬が紐で喜ぶんだな」
ミルカは平然と答えた。
「旅は現実です」
※第24話「自分の腕を試したい」は全七回です。
続きます。
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