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勇者の条件  作者: KEI
第25話 灰の一団

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(五)森の子ども

◆ 森の子ども


別の村では、子どもが森へ入ったまま戻らないという話を聞いた。


日は傾き始めていた。


森は深くない。


だが、夕方の森は道を失いやすい。


小型の魔獣もいるらしい。


母親が泣いていた。


村人たちは松明を準備しているが、闇雲に入るとかえって危ない。


ロアンとエナは、ほとんど同時に言った。


「探しに行きましょう」


「探しましょう」


ミルカは二人を見た。


それから空を見る。


「日没まで、あまり時間がない」


ロアンは頷く。


「だから急ぐ」


「急ぐけど、走らない。食料と水。目印。戻る道。怪我人がいた時の布」


エナはすでに薬箱を開いていた。


「捻挫なら固定します。出血ならまず圧迫。癒やしは最後」


「よし」


ガルドは地面を見ていた。


「小さい足跡がある。こっちだ」


母親が銭袋を握りしめていた。


「お礼は、できるだけします。だから」


ロアンは首を振りかけた。


「報酬の話をしてる場合じゃ」


ミルカが横から言った。


「これは依頼というより、緊急の手助け」


ロアンはミルカを見る。


ミルカは小声で続けた。


「ただし、戻ったあとに保存食を少し分けてもらう。完全に無償にすると、次に動けない」


ロアンは少し黙った。


子どもが危ない時に報酬の話をするのは、冷たい気がした。


けれど、ミルカが言っているのは金を取ることではない。


次に誰かを助けるための準備を残すことだ。


「分かった」


ロアンは頷いた。


森へ入る。


ガルドは足跡を見る。


折れた枝。


柔らかい土の跡。


小さな靴の泥。


「走ってない。迷って歩いた感じだ」


ミルカは木に小さな光を残していく。


派手な灯りではない。


帰り道を示す、薄い光。


エナが途中で足を止めた。


「そっちは、嫌です」


ロアンはすぐ止まる。


「魔物?」


「分かりません。でも、嫌です」


ガルドは周囲を見る。


「右へ回れば足跡に戻れる」


ミルカが頷く。


「回る」


進んだ先で、獣の低い唸りが聞こえた。


もしまっすぐ進んでいれば、鉢合わせしていたかもしれない。


ロアンは小声で言う。


「豆より当たる」


エナも小声で返す。


「森では豆より当たります」


「場所で変わるんですか」


「たぶん」


「たぶんも場所で変わる」


ミルカが言う。


「静かに」


森の奥で、かすかな泣き声が聞こえた。


ロアンは声をかける。


「いるか!」


小さな返事があった。


子どもは木の根元にいた。


足をくじき、動けなくなっている。


近くには小型魔獣が一匹、鼻を鳴らしていた。


ガルドが前に出る。


速い。


けれど、子どもを怖がらせないように、剣を大きく見せない。


一歩で間に入り、魔獣の前足を払う。


魔獣は逃げた。


ロアンは子どもの前に膝をついた。


「もう大丈夫だ」


エナが足を見る。


「捻挫です。折れてはいないと思います」


ミルカが布を出す。


エナは手早く固定する。


癒やしは、ほんの少しだけ。


痛みを和らげる程度。


ロアンが子どもを背負った。


「戻ろう」


村へ戻ると、母親は泣きながら子どもを抱きしめた。


何度も礼を言う。


ロアンは報酬を断りかけた。


だが、ミルカが先に言った。


「保存できる食料を少し分けてもらえますか。干し物か、豆か、硬いパンを」


母親は驚いたが、すぐに頷いた。


「もちろんです。それくらいでいいなら」


ロアンは小声で言った。


「完全に無償にすると、次に動けない」


ミルカは少しだけ目を丸くした。


それから、うなずいた。


「そう」


エナは保存食を受け取りながら、少しほっとした顔をしていた。


困っている人を助けること。


でも、自分たちが次に動けるようにすること。


その二つを、まだうまく分けられない。


ただ、必要なことなのだと、ロアンにも少しずつ分かり始めていた。



※第24話「自分の腕を試したい」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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