(三)灰色の外套の護衛
◆ 灰色の外套の護衛
雨宿りに入った宿場で、商人が護衛を探していた。
小さな宿場だった。
国境洞窟が開いてから荷は動き始めたが、街道沿いにはまだ魔物が出る。
正規の護衛を雇いたい。
だが、遠くまで頼むほどの金はない。
商人は困った顔で、宿の店主と話していた。
「次の村まででいいんだ。荷を通したいだけなんだが」
ロアンはその話を聞いて、ミルカを見た。
ミルカはすでに商人の荷馬車を見ている。
車輪の状態。
荷の量。
馬の疲れ。
道のぬかるみ。
空模様。
そして、商人の腰に下がった銭袋の大きさ。
「短距離なら、できなくはない」
ミルカが言った。
ロアンは頷く。
「困ってるみたいだし」
「報酬は確認する」
「そこから?」
「そこから」
ミルカは商人と話した。
金額は高くない。
むしろ安い。
だが、次の村までなら距離は短い。
荷は生活用品で、危険な品ではない。
魔物が出るとすれば小鬼程度。
ミルカは少し考えた。
「受けるなら、条件。戦闘になったら荷馬車は止めない。馬を守る。荷を捨てる判断が必要なら、先にこちらが言う」
商人は驚いたようにロアンを見る。
「あなたがたは、旅人では?」
ロアンは答えた。
「旅人です」
ミルカが小声で言う。
「報酬を受けたから、今は護衛」
ロアンは言い直した。
「今は護衛です」
商人は少し戸惑ったが、深く頭を下げた。
「助かる」
出発した荷馬車は、雨の上がった街道をゆっくり進んだ。
ロアンは前方と馬の様子を見る。
ミルカは荷馬車の車輪と道を見る。
エナは商人の従者の顔色を気にしている。
ガルドは少し前を歩いた。
剣の柄に手を置いているが、抜いてはいない。
しばらくして、小鬼が三匹、茂みから出てきた。
一匹は前から。
二匹は横から。
荷馬車を止めようとしている。
ガルドが前に出た。
早い。
だが、ただ斬り込んだのではない。
荷馬車から離すように、一匹の足元へ踏み込み、武器を弾き、道の外へ押し出す。
ロアンは馬のそばについた。
「大丈夫だ。止まらなくていい」
馬が暴れかける。
ロアンは手綱を取る商人の従者に声をかけた。
「前を見て。馬を怖がらせないで」
ミルカは小さな土壁を車輪の横に立てた。
横から飛んできた石が、土壁に当たって落ちる。
エナは従者の腕にかすり傷があるのに気づく。
「血が出ています」
「このくらい」
「このくらいのうちに巻きます」
エナは手早く布を巻いた。
癒やしは使わない。
ただの手当てだ。
ガルドが最後の小鬼の武器を叩き落とし、ロアンが剣を向けて道の外へ追う。
小鬼たちは、荷馬車を諦めて逃げた。
商人はしばらく呆然としていた。
「ただの旅人じゃなかったのか」
ロアンは少し困る。
「旅人です」
ミルカが言う。
「今は護衛」
「そうだった」
商人は四人の灰色の外套を見た。
「灰色の外套の護衛か。覚えておく」
ロアンは外套を見る。
「外套で?」
「目印になる」
商人はそう言って、礼を述べた。
次の村で報酬を受け取る。
銅貨は多くない。
だが、干し肉と豆を少し分けてもらえた。
エナは豆を見て、少し嬉しそうだった。
ミルカはその表情を見逃さなかった。
「豆で決めてない?」
「決めていません」
「本当に?」
「少しだけ嬉しいです」
ロアンが言う。
「豆は旅に向いてるから」
ミルカはため息をつく。
「それは正しいけど、二人とも豆に弱い」
ガルドが豆の袋を持ち上げた。
「軽いし、腹にたまる。いいな」
ミルカは空を見た。
四人になって、食料の減り方は増えた。
そして、豆を喜ぶ者も増えた。
※第24話「自分の腕を試したい」は全七回です。
続きます。
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