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勇者の条件  作者: KEI
第4話 神託を焼く

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(一)信仰を焼くのではない

◆ 神殿を焼くべきか


魔王城、作戦室。


卓上に、中央神殿の立体図が浮かんでいた。


巨大な聖堂。


神託の間。


写本庫。


聖剣庫。


神殿騎士の詰所。


巡礼者の宿舎。


負傷者を受け入れる施療院。


魔術投影で映し出された白い神殿は、暗い作戦室の中で、まるで別の世界の建物のように見えた。


竜将が、その投影を見下ろして言う。


「焼き払えばよいのでは」


誰もすぐには答えなかった。


竜将は続ける。


「神託が勇者を導く。聖剣が勇者を強める。ならば、神殿ごと消す。それが最も早い」


死霊宰相が、静かに口を開いた。


「中央神殿には巡礼者、病人、孤児、写本係、下級神官、民間の避難者もおります。全焼させれば、人間側の諸国が一気に結束する可能性があります」


竜将が鼻を鳴らす。


「結束したところで焼けばよい」


現魔王が、そこで口を開いた。


「それでは歴代魔王と同じだ」


竜将が黙る。


魔王は、神殿の投影を見つめたまま言った。


「我らの目的は信仰を根絶することではない。勇者を成立させる機能を壊すことだ」


吸血侯が、細い指で投影の一点を示す。


「神託の間、写本庫、聖剣庫、勇者認定の祭壇。この四つですか」


「そうだ」


「大神官は」


「捕らえられるなら捕らえろ。殺す必要はない。ただし、儀式を続けられぬようにしろ」


竜将が問う。


「神官を生かすのですか」


「生きている神官は、神託が失われたことを人間側に伝える。死体よりも役に立つ」


吸血侯が微笑んだ。


「残酷ですね」


現魔王は表情を変えない。


「合理的と言え」


記録官が筆を構えた。


死霊宰相が羊皮紙を広げる。


「中央神殿強襲、作戦目的。第一、神託記録の焼却。第二、神託の間の結界破壊。第三、聖剣庫の封印解除、および聖剣の破壊または奪取。第四、勇者認定儀式に用いる祭具の破壊。第五、神殿上層部の連絡網分断」


現魔王は言った。


「施療院には手を出すな」


竜将が不満げに問う。


「そこに神官が逃げ込んだ場合は」


「武器を持つ者は制圧しろ。患者を盾にする者は捕らえろ。施療院そのものは壊すな」


吸血侯が言う。


「巡礼者は」


「逃がせ。逃げる者を追うな。ただし、神託記録や聖剣庫の物品を持ち出す者は止めろ」


死霊宰相がうなずく。


「人員殺傷ではなく、機能破壊」


「そうだ」


現魔王は中央神殿の投影を見る。


「神託を焼く。信仰を焼くのではない」


その言葉が、作戦室に落ちた。


竜将は黙っている。


吸血侯は薄く笑っている。


死霊宰相は、すでに破壊対象の優先順位を書き始めていた。


魔王は慈悲を命じているわけではなかった。


ただ、殺すことが常に最適ではないと知っていた。



※第4話「神託を焼く」は全五回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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