(三)粗末な拠点
◆ 粗末な拠点
林の奥に、その拠点はあった。
粗末だった。
だが、放っておけるものではなかった。
倒木を組んだ低い柵。
泥で固めた壁。
枝で作った見張り台。
湿った窪地にはスライムがいる。
奥の方では、小鬼が甲高い声を上げている。
そして柵の向こうに、低級魔獣が数匹。
そのさらに奥。
片腕だけが異様に太い大型の魔物がいた。
木の盾のようなものを持ち、丸太を引きずっている。
討伐隊長が小声で言った。
「岩腕だな」
ロアンは聞き返す。
「岩腕?」
近くの兵士が答える。
「正式な名じゃない。腕が太くて、盾を持つ大型個体をそう呼ぶ。突っ込まれると盾列が崩れる」
ミルカは拠点の地面を見る。
「湿ってる。火は広げない方がいい」
「私は火を使わない。風で煙を逃がす。必要なら足元だけ崩す」
討伐隊長は短く頷いた。
「助かる」
ロアンは周囲を見る。
「俺たちは退路と横から来る小鬼を見る」
エナは倒木の陰を指した。
「負傷者は、あそこに集めます。雨が当たりにくいです」
ミルカが確認する。
「普通の手当てから」
「はい」
「癒やしは最後」
「はい」
ガルドは前方を見ていた。
ライゼンが剣を抜く。
静かな構えだった。
周囲の兵士が、それだけで少し落ち着くのが分かった。
ガルドは思う。
確かに強い。
討伐隊長が手を上げた。
弓兵が弦を引く。
合図。
矢が放たれた。
見張り台の小鬼が落ちる。
盾兵が前へ出た。
槍兵が後ろから柵を突く。
低級魔獣が吠える。
戦闘が始まった。
国の兵士は強かった。
弓兵が見張りを落とす。
盾兵が前進する。
槍兵が小鬼を押し返す。
魔物が横から回ろうとすれば、側面の兵が止める。
村の自警団も、退路を塞がない位置でよく動いていた。
ロアンは横から走ってきた小鬼を見つけた。
新しい剣を抜く。
一歩出る。
小鬼の錆びた刃を受け流し、胴を狙う。
切っ先が少し流れた。
そこへ、ガルドが横から入る。
実剣の平で、小鬼の武器だけを弾いた。
「戻りを早く」
ロアンは小鬼を押し返しながら言う。
「戦いながら指導ですか」
「今のうちの方が覚える」
「厳しい」
「忘れにくい」
「たしかに!」
ロアンは足を戻し、剣を中段へ戻した。
昨日より少しだけ、剣が待ってくれている気がした。
ミルカは小さな風で煙を横へ流していた。
火を強める風ではない。
煙と埃だけを薄く逃がす風。
エナは最初の負傷者に包帯を巻いている。
血は多くない。
癒やしを使うほどではない。
「普通の手当てで大丈夫です」
自分に言い聞かせるように、エナは言った。
ミルカはそれを聞いて、少しだけ頷いた。
※第24話「自分の腕を試したい」は全七回です。
続きます。
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