(二)林の奥へ
◆ 林の奥へ
林へ向かう道は、湿っていた。
前日の雨が残っている。
土は柔らかく、木の根がところどころ露出している。
兵士たちは隊列を崩さず進んだ。
前に盾。
その後ろに槍。
側面に弓。
さらに後ろに荷と手当ての者。
村の自警団が道案内をする。
ロアンたちは、その後方と側面の間にいた。
ロアンは兵士たちの足運びを見ていた。
「歩くだけでも、並び方があるんだな」
ミルカが言う。
「並び方が崩れないから、後ろが安心できる」
「俺が歩くと?」
「まず枝に引っかかる」
「今日まだ引っかかってない」
「今のところ」
エナが薬箱を抱えて言う。
「私は、引っかかったら先に言います」
「ありがとう。でも引っかかる前に言ってくれると助かります」
「だめな気がしたら言います」
「そこ頼りなんですね」
ガルドは前の隊列を見ていた。
国の兵士は、確かにしっかりしている。
盾の間隔。
槍の角度。
声を出さない合図。
斜面を通る時の歩幅。
よく訓練されていた。
ただ、ガルドの目には別のものも見えていた。
あの根の上は踏まない方がいい。
あのぬかるみは、左足から入ると崩れる。
あの斜面なら、半歩外側の石を使った方が戻りやすい。
兵士たちは隊列を優先して歩く。
崩れない並び方をしている。
だが、一人一人の足場の選び方は、ガルドには少し甘く見えた。
彼自身は、それを特別なこととは思っていなかった。
崖で薬草を採るなら、足場を見るのは当たり前だ。
崩れたら落ちる。
だから見る。
それだけだった。
エナがふと足を止めた。
「少し、右です」
ロアンがすぐ聞く。
「だめなやつ?」
「たぶん」
ミルカは前方の茂みを見る。
「右?」
エナは頷く。
「左は、なんとなく嫌です」
ミルカが近くの兵に伝える。
「左の茂み、確認してください」
兵士は一瞬だけエナを見たが、すぐに弓兵へ合図した。
弓兵が茂みへ矢を向ける。
がさり、と音がして、小鬼が一匹飛び出した。
兵士が即座に槍で押さえる。
ロアンは目を丸くした。
「当たった」
エナは少し困る。
「当たってほしくはないんですけど」
ミルカが言う。
「当たった方が助かる」
「それはそうですね」
ロアンが小声で言った。
「豆より当たる」
エナも小声で返す。
「豆とは別です」
「分類が進んでる」
兵士の一人が、エナを見る目を少し変えた。
ただの見習い神官ではない。
そう思ったのかもしれない。
エナはそれに気づいて、薬箱を抱え直した。
ミルカが静かに言う。
「後ろで」
「はい」
ロアンも頷く。
エナは前に出ない。
それは、もう皆で決めたことだった。
※第24話「自分の腕を試したい」は全七回です。
続きます。
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