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勇者の条件  作者: KEI
第23話 田舎道場の神速

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(七)自分の腕

◆ 自分の腕


夕方近く、道場に自警団長がやってきた。


顔が険しい。


師範がすぐに気づく。


「どうした」


自警団長は道場の中を見回し、ガルドを見つけた。


「師範、ガルドを借りたい。林の奥に魔物が巣を作っている」


稽古場の空気が変わった。


ロアンは顔を上げる。


「魔物の巣?」


自警団長はうなずいた。


「大きくはない。だが、小鬼が数匹と、低級魔獣がいるらしい。早めに潰したい。放っておくと街道に出る」


ミルカはロアンを見る。


ロアンも察した。


国境洞窟ほど大きな問題ではない。


だが、放っておけば道に出る。


道が塞がる前に動く必要がある。


エナは薬草籠を抱え直した。


「怪我人が出るかもしれません」


ミルカが静かに言う。


「でも、エナが前に出る必要はない」


「はい」


「癒やしすぎない」


「はい」


ロアンはガルドを見た。


ガルドは木剣を置き、壁に立てかけていた本物の剣を手に取った。


表情は変わっていない。


怖がってもいない。


浮かれてもいない。


ただ、いつものように剣を持つ。


師範が問う。


「ガルド」


「分かってる」


ガルドは自警団長を見た。


「行く」


師範は少し目を細める。


「何を考えている」


ガルドは剣の柄を確かめた。


「ちょうどいいかもしれない」


「何がだ」


「外の相手と比べる前に、自分の腕を少し試したい」


ロアンは、その言葉に息を飲んだ。


ガルドはまだ知らない。


自分の剣が、田舎道場の中だけに収まるものではないことを。


ミルカは小さく呟いた。


「少し、では済まないと思うけど」


ロアンが聞く。


「何が?」


「ガルドさんの腕」


エナはガルドを見ていた。


「だめな感じは、しません」


ミルカが確認する。


「危ない感じは?」


エナは少し考える。


「危ないです。でも、行ってはいけない危なさではないです」


ロアンは頷いた。


「じゃあ、確認しながら行こう」


ミルカが言う。


「ロアンが突っ込まないことも確認」


「はい」


ガルドは不思議そうにロアンを見る。


「突っ込むのか」


ミルカが即答した。


「突っ込みます」


ロアンは反論しかけて、やめた。


「最近は、少し戻ります」


エナが言う。


「少し戻れるのは強いです」


師範はそれを聞いて、小さく笑った。


「なら、行ってこい。だが、戻れ」


ガルドは頷いた。


「分かった」


その道場は、名門ではなかった。


王都に看板を掲げているわけでもなく、貴族の子弟が通うわけでもない。


村の若者が、自警団が、荷運びが、猟師の息子が、必要だから剣を習う田舎道場だった。


そこでガルドは剣を振っていた。


特別な奥義を誇るわけでもない。


派手な名乗りもない。


毎朝、崖で薬草を採り、足場の悪い岩の上で体を戻し、道場で中段に構え、斬って、戻す。


それを繰り返していただけだった。


だが、その繰り返しは、いつの間にか異様な速さに届いていた。


ガルド本人は、まだ知らない。


自分の剣が、田舎道場の中だけに収まるものではないことを。


ロアンたちも、まだ知らない。


その剣が、いつか神速の剣聖と呼ばれることを。


ただその日、ロアンは思った。


この人の剣は、少しおかしい。


そしてミルカは思った。


少しではない。


かなりおかしい。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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