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勇者の条件  作者: KEI
第23話 田舎道場の神速

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(六)戻りが速い

◆ 戻りが速い


道場へ戻ると、師範はロアンたちの顔を見て笑った。


「崖を見てきたか」


ロアンは頷いた。


「はい」


「どうだった」


ミルカが答える。


「危険です」


エナも言う。


「危険です」


ロアンも言う。


「危険でした」


ガルドは少し困った顔をした。


「三人とも同じことを言う」


師範は笑った。


「あそこを危険と思わんのは、お前くらいだ」


「師範も行ったことあるだろ」


「危険だと思っている」


ガルドは少し驚いた顔をした。


「そうなのか」


ミルカが小声で言う。


「本人だけが知らないこと、多いですね」


ロアンも小声で返す。


「俺もそういうことある?」


「ある」


「即答」


師範は稽古場の中央に立った。


「ガルドは、昔から剣が速かったわけではない」


ロアンは少し驚く。


「そうなんですか」


「ただ、倒れなかった。踏み込んでも崩れない。押されても戻る。足場が悪くても構えが残る」


ガルドは自分の足を見る。


「普通じゃないのか」


師範は無視して続ける。


「速さだけなら、もっと派手な剣士もいるかもしれん。だが、あいつは戻りが速い」


ロアンは聞き返した。


「戻りが速い」


「斬った後、次に斬れる形へ戻る。避けた後、すぐ斬れる形へ戻る。崩された後、崩れていない形へ戻る。それが異様に速い」


ミルカが言う。


「だから、ずっと構えているように見える」


師範はうなずいた。


「そうだ」


ロアンはガルドを見た。


神速。


その言葉が浮かびそうになって、まだ早いと思った。


ガルド本人は、ただ木剣を肩にかけている。


薬草籠の紐を直している。


自分が異様だとは、まるで分かっていない顔だった。


ロアンは尋ねた。


「外の剣士と戦ったことはありますか」


ガルドは首を振った。


「ない。道場と村の自警団くらいだ」


「自分が強いと思ったことは?」


ガルドは少し考えた。


「村の中では、まあ、勝つことが多い」


「外では?」


「分からん」


ミルカが聞く。


「外を見てみたいとは思わないんですか」


ガルドは即答しなかった。


薬草籠を見る。


道場を見る。


村を見る。


「思わないわけじゃない。ただ、村の薬草もあるし、道場もある」


エナが静かに言った。


「戻ってきてもいいと思います」


ガルドはエナを見る。


エナは続ける。


「ロアンさんが、そう教わったそうです」


ロアンは少し照れた。


「受け売りです」


ミルカが言う。


「でも、大事」


ガルドは少し笑った。


「戻っていいなら、試しに出るのもありか」


師範は黙ってガルドを見ていた。


その目には、少しだけ安堵があった。


たぶん師範も、ずっと思っていたのだ。


この田舎道場だけでは、ガルドの剣がどこまで届いているのか分からない。


外を見た方がいい。


けれど、戻る場所がなければ、押し出すこともできなかったのだろう。


ロアンは木剣を握り直した。


「もう一度、お願いします」


ガルドは頷いた。


「いいぞ」


今度は、ロアンも少しだけ分かっていた。


勝てるはずはない。


当てられるはずもない。


けれど、戻す。


次の形を残す。


ガルドが踏み込む。


ロアンは下がる。


木剣が肩の横で止まる。


だが、今度はロアンの木剣も、少しだけ前に残っていた。


ガルドが言う。


「今のはよかった」


ロアンは息を切らす。


「一回も当ててないですけど」


「前より、次の形が残ってた」


ミルカが頷く。


「剣に振られる感じは減ったかも」


エナも言う。


「剣が少し安心している感じがします」


ロアンは剣を見る。


「また剣が感情持ってるみたいな言い方を」


ガルドは真面目に言った。


「道具は持ち主が雑だと困るからな」


ロアンは少し傷ついた。


「雑……」


ミルカが言う。


「否定はできない」


エナは少し考える。


「でも、少し丁寧になりました」


「それは褒めてます?」


「はい」


ロアンは息を吐いた。


「少しでも褒めなら、ありがたいです」



※第23話「田舎道場の神速」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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