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勇者の条件  作者: KEI
第23話 田舎道場の神速

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(一)剣が困っている感じ

◆ 剣に振られる


ロアンは、神殿の裏庭で剣を振っていた。


鍛冶師から受け取ったばかりの剣である。


派手な装飾はない。


宝石もない。


刃はまっすぐで、鞘は丈夫で、柄は手に馴染む。


旅で抜き、振り、戻し、手入れすることを考えられた剣だった。


良い剣だ。


それは分かる。


分かるのだが。


ロアンが一振りすると、切っ先がわずかに流れた。


戻そうとして、足が半歩遅れる。


もう一度振る。


今度は振り下ろしは悪くない。


けれど、戻りが遅い。


剣が先に動き、体が後から追いかけている。


ロアンは息を吐いた。


「剣は悪くない」


少し離れた石段に座っていたミルカが答える。


「剣はね」


ロアンは振り返る。


「今、俺が悪いって言った?」


ミルカは少し考えた。


「剣に比べると、ロアンが未熟」


「言い方」


「柔らかくした」


「これで?」


「剣が良すぎる、でもよかった」


「それだと、俺が悪くない感じがする」


「悪くないとは言ってない」


ロアンは剣を見下ろした。


「剣に申し訳なくなってきた」


エナが薬草籠を抱えたまま、横から首をかしげる。


「剣が困っている感じはします」


ロアンは剣を両手で持ち上げた。


「剣が困る?」


「なんとなく」


ミルカが言う。


「エナのなんとなくは、豆以外ならそこそこ当たる」


エナは真面目にうなずいた。


「豆は気持ちに左右されます」


「まだ豆の分類続いてるんですか」


ロアンは肩を落とす。


エナは剣をじっと見る。


「剣は、ロアンさんを待っている感じがします」


「待ってる?」


「はい。戻るのを」


ミルカが目を細めた。


「それは分かるかも。振るより、戻すのが遅い」


ロアンは剣を鞘へ戻した。


「戻すのが遅いって、昨日も鍛冶師さんに言われた気がする」


ミルカはうなずく。


「旅では一振りで終わらないって」


「覚えてる」


「覚えてるなら、教わった方がいい」


「誰に?」


その時、神殿の父が祈りの間から出てきた。


手には古い紙片を持っている。


「近くの村に道場がある」


ロアンは顔を上げた。


「道場?」


「田舎道場だ。立派な看板があるわけではないが、基礎はしっかりしている。旅の剣を持つなら、派手な技より先に、抜いて、振って、戻せることだ」


ミルカが頷く。


「行った方がいいと思います」


エナも言う。


「剣も、その方が安心すると思います」


ロアンは剣を見る。


「剣のために道場へ行くのか」


ミルカが言う。


「ロアンのためでもある」


「順番は?」


「剣、ロアン、私たちの安全」


「俺、剣の後?」


「今は」


ロアンはしばらく剣を見下ろした。


昨日受け取ったばかりの剣。


病み上がりの鍛冶師と、疲れ切ったエナと、支えた人たちの手で生まれた剣。


扱えないままではいられない。


「行こう」


エナの父は、エナを見た。


「近隣までだ。無理はしないこと」


エナは薬草籠を胸に抱えた。


「はい」


ロアンは少し驚く。


「エナさんも?」


エナは頷く。


「外を見る、最初の少しです」


ミルカが確認する。


「疲れたら戻る」


「はい」


「癒やしを使いすぎない」


「はい」


「短めに倒れるのも禁止」


エナは少し困った顔で笑った。


「それ、もう決まりなんですね」


ロアンが言う。


「俺も靴紐確認が決まりになってるので」


エナは微笑んだ。


「決まりがあると、少し安心します」


「俺の靴紐と同じ扱いでいいんですか」


ミルカは立ち上がった。


「行くよ。剣も困ってる」


ロアンは剣を腰に差した。


「剣に急かされる日が来るとは」


三人は、神殿を出た。



※第23話「田舎道場の神速」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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