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勇者の条件  作者: KEI
第22話 疲れ切った二人から受け取った剣

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(六)炉に火が入る

◆ 炉に火が入る


鍛冶場に火が入った。


落とされていた炉が、ゆっくりと息を吹き返す。


煤の匂い。


鉄の匂い。


熱の匂い。


村の生活を支えてきた場所が、少しずつ動き始める。


鍛冶師は病み上がりだった。


長くは立てない。


妻が横に立つ。


弟子はいなかったが、代わりにロアンが道具を渡した。


ミルカは風を見た。


火を強めるのではなく、熱が逃げすぎないように整える。


大きな魔法ではない。


空気を少しだけ動かす。


エナは椅子に座らされていた。


薬箱を膝に置いている。


手を出したそうにするたび、父が視線で止める。


「癒やしすぎるな」


「まだ何もしていません」


「顔がしている」


エナは小さく肩を落とした。


「顔が早い人、ここにもいました」


ロアンが道具棚から返す。


「仲間ですね」


ミルカが言う。


「顔が早い組は休んで」


「俺は働いてる」


「邪魔しなければね」


「条件付きの労働」


鍛冶師は鉄を見た。


「良い鉄じゃない。だが、悪い鉄でもない」


ロアンが聞く。


「それでいいんですか」


鍛冶師は笑った。


「剣は材料だけで決まらん。持つ者と、使う場所でも変わる」


鉄が赤くなる。


鍛冶師は槌を握った。


腕は震えていた。


だが、槌を下ろす音は乱れなかった。


一打。


また一打。


火花が散る。


ロアンは水を用意し、道具を渡し、汗を拭う布を差し出した。


ミルカは火と風を見る。


妻は鍛冶師の呼吸を見ている。


エナは手を握りしめ、立ち上がらないようにしていた。


鍛冶師の腕が一度止まる。


エナがすぐに立ちかけた。


父が静かに言う。


「エナ」


エナは座り直す。


ミルカが横から言った。


「今エナが倒れたら、鍛冶師さんが怒る」


エナは困った顔をする。


「それは、困ります」


鍛冶師は息を整えながら笑った。


「怒るぞ」


「じゃあ、座っています」


「そうしてくれ」


少し休む。


また打つ。


鉄を熱する。


伸ばす。


戻す。


削る。


整える。


鍛冶師は何度も休んだ。


そのたびに、妻が水を渡した。


ロアンが椅子を引いた。


ミルカが時間を見る。


エナが手を握ったまま、癒やしを使いすぎないように耐えた。


誰か一人が剣を作っているのではなかった。


鍛冶師が打つ。


妻が支える。


ミルカが火と風を整える。


エナが、無理をしない範囲で痛みを和らげる。


ロアンが道具と水と薪を運ぶ。


小さな精霊たちの話と同じだった。


足りないところを、少しずつ補う。


やがて、剣の形が見えてきた。


装飾はない。


派手な刃文もない。


宝石もない。


だが、まっすぐだった。


旅の道で抜き、振り、戻し、手入れすることを考えた形だった。


鍛冶師は最後の仕上げを終えると、椅子に座り込んだ。


エナも椅子に沈むように背を預けた。


二人とも、疲れ切っていた。


ロアンはその二人を見た。


どちらか一人の奇跡ではなかった。


疲れ切った二人と、その周りの手によって、一本の剣が生まれた。



※第22話「疲れ切った二人から受け取った剣」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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