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勇者の条件  作者: KEI
第22話 疲れ切った二人から受け取った剣

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(五)礼を打つ

◆ 礼を打つ


鍛冶師が鍛冶場へ入ろうとしたのは、その翌日の朝だった。


妻が戸口で立ちはだかった。


「どこへ行くつもり」


鍛冶師は、寝台から抜け出した子どものような顔をした。


「鍛冶場だ」


「見れば分かるよ。どうして行くのか聞いてる」


「礼をしなきゃならん」


「礼は寝てからでもできる」


「寝ていたら、礼は打てん」


妻の眉が跳ね上がった。


「打つ気かい」


ロアンたちが到着した時には、もう鍛冶場の前で揉めていた。


エナは薬箱を抱えて立ち尽くす。


「まだ寝ていてください」


鍛冶師は首を振った。


「今でなければ、打てんものもある」


ミルカが言う。


「今すぐ打つ必要はありません」


「ある」


鍛冶師は短く答えた。


体はまだ弱っている。


立っているだけでも、少し息が乱れている。


それでも目ははっきりしていた。


無茶をしたい目ではない。


何かを形にしなければならない目だった。


ロアンは、その目を見て黙った。


鍛冶師は言う。


「剣を打つ」


ロアンが驚く。


「剣?」


「お前さんにだ」


「俺に?」


「旅人には、道具が要る」


ロアンは慌てた。


「でも、俺は鍛冶師さんを治してないです」


鍛冶師はエナを見る。


「治したのはこの子だ」


エナは困ったように目を伏せた。


鍛冶師はミルカを見る。


「倒れないように見張ったのはあんただ」


ミルカは少しだけ眉を上げる。


「見張っていました」


「よく見張っていた」


最後に、鍛冶師はロアンを見る。


「薪を運び、水を汲み、薬草を取り、炉を片づけたのはお前さんだ」


ロアンは黙る。


「一人で助かったわけじゃない。なら、剣も一人への礼じゃない」


「でも、受け取るのは俺なんですか」


「お前さんが一番剣を使う」


ミルカが静かに言う。


「それはそう」


「そこは否定して」


「私は杖」


エナが言う。


「私は薬箱です」


ロアンは自分の腰の古い剣を見る。


村を出る時に持ってきた剣。


何度も研ぎ直し、柄も少し緩んできている。


鍛冶師はそれを見る。


「悪くはない。だが、旅が続くなら、その剣では足りん」


「足りない」


ロアンは小さく繰り返した。


鍛冶師は頷く。


「足りないなら、補えばいい」


その言葉で、ロアンは断れなくなった。


エナの父が言った。


「無理はさせない。時間を区切る。エナも癒やしすぎない」


鍛冶師の妻が腕を組む。


「倒れたら中止」


ミルカも言った。


「途中で熱が上がったら中止」


エナも言った。


「息が乱れたら休憩です」


ロアンは少し考え、最後に言った。


「俺が邪魔をしたら?」


鍛冶師は即答した。


「外へ出す」


ミルカが頷く。


「妥当」


「そこは庇って」


「邪魔をしなければいい」


「はい」


鍛冶師は、ようやく少し笑った。


「なら始める」



※第22話「疲れ切った二人から受け取った剣」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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