(四)守ること
◆ 守ること
その夜、エナは神殿の小部屋で眠っていた。
眠っているというより、力尽きていた。
父は、娘の寝顔を見ていた。
ロアンとミルカは、少し離れた場所にいた。
ミルカは記録帳を閉じる。
「熱は、もう大丈夫だと思います」
父はうなずいた。
「助かった」
その声には、安堵だけではないものが混ざっていた。
誇らしさ。
恐れ。
迷い。
ロアンにも、それは少し分かった。
父は静かに言った。
「私は、この子を守っているつもりだった」
ロアンは黙って聞いた。
「中央に知られれば、呼ばれるかもしれない。力を求められるかもしれない。ここにいれば、私の目が届く。村の者たちも、この子を知っている」
ミルカが言った。
「外に出れば危険です」
父はうなずく。
「分かっている」
「癒やしの力を頼られることも増えると思います。使いすぎれば、エナが倒れます」
「分かっている」
父は眠るエナを見る。
「だが、守ることと、閉じ込めることは違うのかもしれない」
ロアンは、少しだけ考えた。
神殿の外。
街道。
洞窟。
村と村。
戻る場所。
「戻ってきてもいいと思います。いつでも」
父がロアンを見る。
ロアンは続けた。
「進むなら、戻る理由も持っていた方がいいって教わりました。エナさんも、戻ってきていい場所がある方がいいと思います」
父は少しだけ表情を緩めた。
「君は、妙なところで神官のようなことを言う」
ロアンは困った。
「そうですか?」
ミルカが言った。
「たまにです」
「たまに」
ロアンは少し肩を落とした。
父は笑った。
小さく、けれど本当に笑った。
「たまにで十分だ」
ミルカは眠っているエナを見る。
「でも、今すぐ旅に出る話ではないと思います」
父はうなずく。
「分かっている。今は休ませる」
「それがいいです」
ロアンも頷いた。
「俺たちも、まだそんなに頼れる旅人じゃないですし」
ミルカが見る。
「自覚は大事」
「そこは褒めて」
「少し」
父は、二人を見ていた。
若い。
危うい。
けれど、足りないことを足りないと言える。
戻ることを失敗だと思わない。
それは、エナに必要なものかもしれなかった。
まだ結論ではない。
だが、父の中で、何かが大きく傾いていた。
※第22話「疲れ切った二人から受け取った剣」は全七回です。
続きます。
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