普通という仮面
小学五年生。
杉田神ノ助は、教室の窓際に座っていた。
昼休みの教室は騒がしい。
笑い声。
机を動かす音。
誰かを呼ぶ声。
神ノ助は頬杖をつきながら、その光景を眺めていた。
くだらない。
人間は、どうしてこうも小さなことで喜び、怒り、悲しむのだろう。
昨日と同じような今日を過ごし、明日もまた同じような一日を迎える。
そんな人生に、何の意味がある。
「杉田くん」
声がした。
振り返ると、少女が立っていた。
彼女の名は村山 ことは
彼女は妙に俺に話しかけてくる
正直気味が悪い
「今日の宿題、もう終わった?」
「終わったけど」
「そっか。早いね」
「別に普通だろ」
神ノ助はすぐに視線を戻した。
ことははそれ以上何も言わず、手に持っていたノートを閉じた。
その様子を見ても、神ノ助は特に何も感じなかった。
彼女は昔からこうだった。
何かと話しかけてくる。
特別な用事があるわけでもないのに。
正直、少し面倒だった。
「杉田、今日のドッジボール入る?」
今度は別の男子が声をかけてきた。
「気が向いたら」
「またそれかよ!」
男子は笑いながら友達の輪に戻っていった。
神ノ助も小さく笑った。
もちろん、楽しいからではない。
周囲に合わせるための表情だ。
人間として生活する以上、人間らしく振る舞う必要がある。
それだけだった。
そのとき、教室の後ろで小さな声が聞こえた。
「……あれ、誰の?」
誰かの机の上に、見覚えのない封筒が置かれていた。
差出人の名前はない。
周囲の生徒たちは、誰かのいたずらだろうと笑っている。
神ノ助は一度だけ封筒に目を向けた。
そして、すぐに興味を失った。
人間の世界で何が起きようと、自分には関係ない。
そう思っていた。
――ただ、その封筒の表には、神ノ助にしか読めない文字が一つだけ記されていた。
「クラーク」
神ノ助の指が、ほんのわずかに止まった。




