聞き覚えのある声
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「……クラーク?」
神ノ助は、封筒に書かれた文字を見つめていた。
見間違えるはずがない。
神々の世界で使われていた文字。
人間が知るはずのない、古い神々の言語だった。
「杉田、どうした?」
近くにいた男子が声をかけてくる。
「いや、何でもない」
神ノ助は封筒を手に取った。
裏返してみても、差出人の名前はない。
中を確認しようとした、その瞬間だった。
『お、見つけたか』
頭の中に、聞き覚えのある声が響いた。
神ノ助の手が止まる。
「……ゼウス」
『久しぶりだな。元気そうじゃないか』
「お前、これを送ったのか?」
『さあ、どうだろうな』
「ふざけるな。質問に答えろ」
『相変わらず短気だな』
神ノ助は周囲を確認した。
誰もこちらを気にしていない。
どうやら、声が聞こえているのは自分だけらしい。
「何の用だ。わざわざこんなものを寄こして」
『いや、ちょっと様子を見に来ただけだ』
「様子?」
『お前がちゃんと人間をやってるかどうか』
「余計なお世話だ」
『ははっ。まあ、そう言うなよ』
神ノ助は封筒を机の中にしまった。
「もう話すことはない。消えろ」
『冷たいな。せっかくの再会だろ?』
「再会した覚えはない」
『そうか。じゃあ、またな』
声が消えた。
神ノ助は小さく息を吐いた。
まったく、何も変わっていない。
神王になっても、あいつの性格だけは昔から変わらないらしい。
いや――。
「……そもそも、何で今さら」
その疑問だけが、頭に残った。
放課後。
神ノ助はいつも通り、誰とも特別な約束をせずに帰る準備をしていた。
「杉田くん」
ことはだった。
「何?」
「今日、一緒に帰らない?」
「今日はいい」
「そっか」
ことはは短く答えると、自分の荷物を持った。
「じゃあ、また明日」
「ああ」
それだけの会話だった。
神ノ助は彼女の背中を一度見たが、すぐに興味を失った。
校門を出る。
夕暮れの空には、薄い雲が広がっていた。
『お前、友達はいるのか?』
「……またかよ」
『いや、気になってな』
「いるだろ。見てただろ」
『あれを友達と呼ぶのか?』
「人間の世界ではそう呼ぶんだよ」
『ふーん。難しいもんだな』
「お前に理解できるとは思えないけどな」
『それはお互い様だろ』
神ノ助は少しだけ眉をひそめた。
ゼウスの声は、いつも通り軽い。
だが、今日は一つだけ気になることがあった。
「なあ、ゼウス」
『ん?』
「俺を人間界に送った本当の理由は何だ?」
一瞬、返事がなかった。
『前にも言っただろ。頭を冷やせって』
「それだけか?」
『……今は、それだけでいい』
神ノ助は足を止めた。
「どういう意味だ」
『そのうち分かるさ』
それを最後に、声は聞こえなくなった。
神ノ助はしばらく夕空を見上げていた。
そして、何事もなかったかのように歩き出した。
人間としての生活は、まだ始まったばかりだった。
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