社交の場とエミリオ王子
さて、こうして学校に向かう馬車に乗っている私達ではありますが、メリルとの関係も単に姉妹になったというだけでは終わりませんでした。
知っての通りメリルは王太子殿下と婚約致しましたので、次期王妃という立場になっております。
これはただの公爵令嬢という私よりも上に立ったという事です。
これは噂好きの貴族達からしてみれば格好のネタとなったことでしょう。
最初は社交の場に招かれた2人を見送っていたのですが、段々と私とメリルの不仲説が流れ始めました。
中には殿下と私が婚約する予定でしたが、父の隠し子だったメリルに一目惚れした王子がそちらを婚約者に指名した・・・というある意味で核心に迫った噂まで流れ始めました。
あながち間違いではないのですが、このまま不仲説が流れるのは非常によろしくない為に、2人が招かれた社交の場に私も同席する事に致しました。
殿下と2人の時は毅然としていたらしいメリルでしたが、私がついてくると自然と私に頼るようになっておりました。
結果的に不仲説は消えていったのですが、私が社交の場に3人で赴くようになると厄介な問題が起こります。
それは余り物の私に言い寄ってくる男性が多数いたということです。
現在、クロード家は娘しかおらず後継がおりません。
つまり、私の心を射止めれば下位貴族であっても公爵家の跡取りになれるという事です。
普段は殿下とメリルが上手くブロックしてくれているのですが、ダンスの時間になると2人が参加しない訳にはいきません。
その間、私は壁の花に徹しているのですがそこを狙って様々な方からダンスのお誘いを受けます。
私はそれを母譲りの弱い身体と演技をして全てお断りしていたのですが、結果的にこれは一年間の病欠を取る事に説得力を持たせたので良かったと思います。
しかし、私が病気で倒れたということにする一年前・・・14〜15歳の頃に社交の場に立場上とても面倒な人物がついてくるようになりました。
殿下、メリル、私の3人についてこれて同じ馬車に乗れる人物・・・そう、第2王子のエミリオ様です。
彼は私達がやんわり拒否しているのを全く気にせず、ニコニコと同じ馬車に乗り込んで社交についてこられました。
そして、何故か私を「姉様」と呼んで懐いておいででした。
私はエミリオ様に
「私はエミリオ様の姉ではありませんよ」
と言うのですが、エミリオ様は
「兄上とメリルさんが結婚すればメリルさんは私の姉上になられるのですよね?
ならば、メリル姉さんの姉であるエリカさんも僕の姉上ですよ」
と言って聞きません。
結果的に私はその一年間、エミリオ様にエスコートされる事になってしまいました。
こうなると今度は私達の噂を始めます。
曰く、クロード家は娘2人を王家に入れて自身も王族になるつもりだ。
曰く、あの4人が仲が良いのは表面だけで、第一王子派と第2王子派の後継争いが始まっている。
曰く、後継を諦めたエミリオ王子は王族から脱し公爵家に婿入りするつもりだ。
本当に良くもそこまで他人の噂話で盛り上がれるものだとは思いますが、政治的な思惑が絡む以上は考えずにはいられないのでしょう。
病気を理由に引きこもっていた頃はそんな噂話に悩まされることもなかったのが幸いでした。
メリルに会いに来た殿下に付き添ったエミリオ様が私の見舞いに来られるのが面倒ではありましたが。
エミリオ様はシグルド様とよく似ており黒髪の美男子です。
しかし、シグルド様が野性味溢れるのに対してエミリオ様はとても温和な方です。
まさに正反対の兄弟と言えるでしょう。
そんなエミリオ様とシグルド様の年の差は1歳・・・そう、私達と同じようにエミリオ王子も今年、貴族学校に入学してくるのです。
(学校に入ってからも楽はできそうにありませんわね)
私はこれから始まる学校生活を考えて大きなため息を吐きました。




