お店を開く準備14 鷹仁
道路まで聞こえる、あかりさんの声は次第に小さくなっていく。
その声に後ろ髪を引かれるような感覚のまま、僕達は不動屋さんに向かった。
不動屋さんに着くと、3人の足が止まる。
前に、自分達は故意ではなかったといえど、警察に追われるような事をしてしまった現場でもあったからだ。無理もない。
僕の姿を見た社長が飛び出してきて、僕達はそのまま店へと通された。
僕達は、応接室に通されると、社員から必要事項の説明を受けるのだが、あかりさんの事が気になり、殆どが耳に残らなかった。
その頃、居酒屋では・・・
「グズンッ」
「ヨシヨシ」
「・・・」
「私はね、あの子に救われたんだよ」
「うん。ン?」
「あの子、強いでしょ」
「そーなんですか?私はよく。ただ台智が」
「台智?君の隣にいた男の子かな」
「はい。彼が私達を助けてくれて、だから俺は奴隷になると」
「そー奴隷というものが、どの様なものか私にはわからないわ。ただね、私達家族は彼に救われたのよ」
「意味が」
「わからないわよね。私も私の旦那もそして、彼等が向かっている不動屋さんの社長も実はライセンスカードの保持者なの」
「えっ」
「だからといって、ダンジョンの攻略が出来るほどの力は持ち合わせてないわ」
「そーなんですか」
「そーよ。多分もーダンジョンには潜らないと思うわ。でもね、彼の手助けは自分達が出来る範囲でやろうと思っているのよ」
「さっき家族って言いましたよね。何が」
「あれ?言ったかな?そうねあれは今月の始め頃かな。不動屋さんの社長が久々に尋ねてきて、ダンジョンの攻略をしないかと言ってきたのよ。高校生の彼に出来るなら我々にも出来るはずだと。旦那にだけどね」
「うん」
「その頃、旦那は私がライセンスカードの保持者と知らなかったのだが、私が一緒にいくと着いてったのよ。あわよくば小遣い稼ぎと思ったのも運の付きかもね。それを子供に見られてるとも知らずにね」
「それで」
「ダンジョンに入ってすぐ、私達は負傷したわ。その時パニクって入口に戻るはずが、奥に進んでしまいその後の私の記憶はパニックと共にあやふやになってしまったのよ」
「っ」
「あら、ご免なさい。話やめようか」
「いえ、つっ続けて下さい」
「そう、きつかったら言ってね。後日聞いた話なんだけどね、逃げ込んだ先が部屋で、大勢の魔物に殴られてたところに、息子と娘が助けに入ったそうなのよ。と言っても小学生の子供に何が出来よう、その時私達の家族は詰んでしまったの」
「でも」
「でもね、その時彼が助けてくれたのよ。息子曰く綺麗な流れ星を操って助けてくれたのよだってさ。正確には手裏剣使いなんだけどね」
「手裏剣ですか」
「私達はその後ダンジョンから出され、気付いたら布団に寝かされていたわ。傷1つ無い体でね。周りに制服警官がいたのはビックリしたけど。家族一同無事だったことに感謝してるわ」
「それを彼がやったと」
「お巡りさんがそう言ってたし、間違って無いと思うわよ」
私の時とほとんど変わらない。ただ、私の場合借金があり奴隷落ちしたのだ。
彼は、私達を助けてくれてた。オカミさんの家族も、家族?息子と娘と言ってたか。
「お子さんは?居ないようですが」
「そうね、朝から出掛けてるわ。日が沈む前には帰ってくると思うけど」
「どこ行ったかわからないんですか」
「わからないわね」
「何年生位なんですか」
「上が息子で小学6年、娘が小4だね」
以外と小さいなと思う。大丈夫なのかな。放置親には見えないけど。
「ン?放置親と思ったかな?でもね、無理無いの。あの子達は私や旦那じゃ勝てない位強いのよ。親として見てくれてるから、叱ることや教えることはできても、怒ることはもうできないよ。特に理不尽な怒り方なんてね。多分Gクラスのダンジョンなら1人ずつでも、攻略できるんじゃないかな。まー彼のそばに居ればその内会えるかもね」本当にこれからの反抗期どう対処しよう。
マジですか。
「彼、高校生でしょ。世間知らずなのよ。その上で通常とはあり得ない程の力を手に入れてしまったので、周りの大人に流されてるだけなのよ。私にはそう見えるわ」
「私にはわかりません」
「そうね、もう少し人生経験すれば解るかもね。ただ、彼の中では善悪ははっきりしていても、自分のしていることが他人にとって善し悪しか解ってないのかもしれないね」
「言われてみればそんな気も。先程もこのような実印を買ってもらったし。私こんな綺麗な実印もったえないし断ろうかと」
「見せて・・・これは綺麗ねでも・・・」
「琥珀だそうです」
「えー私の娘の名前にもこの琥珀から一文字もらっていますからね」
「そうなんですか。でも私には」
「今はねもったえないと思うでしょ。自分で選んだ訳じゃなさそうね」
「えーハンコ屋のおじいさんが」
「そーそのハンコ屋のおじいさんも、彼も将来的にこれに負けない女になると思って選んでくれたんじゃないかしら」
「そんな」
「だからね、今は流されてみれば良いのよ。それでもって自分の意思をしっかりもって自分の道を歩んでいけばいいと思うよ。彼なら悪いようにしないと思うわよ」
「そーですね。今は出来ること少なくても、地道にやっていきたいと思います」
「そうよ。それに」
「それに?」
「ううん。今はいいわ。もう大丈夫ね。ホラッ立って。皆を追いかけるわよ」
「えっでも」
「デモじゃない。不動屋さんまで案内してあげるから」
「はっはい」
「ヨシいこう」ガラガラッ「アナタここにいたの」「入りづらくてな」「ごっご免なさい」「良いってことよ」「じゃ私は彼女をそこまで送ってくるから」
「気を付けてな」ガラガラッ「片付けるの俺」
あかりさんが入ってくる。「あかり、もー大丈夫なのか」台智さんがいち早く立ち上がり声をかけながらあかりさんに近づく。
「う、うん。心配かけてゴメンね」「お、俺は。それよりも」「大丈夫だよ」「そ、そうか」2人は、僕に近づき頭を下げる。
プチパニックを起こす僕だが、平然を装い「あーうんうん。いいから座んなよ」とだけ言った。
皆を席に着くと、説明は最初からだった。
20分ほどたったと思う。説明が終わり実印を指定した場所に押しサインをすると、地図と鍵をもらう。
僕は、今日マンションを見る気になれなかった。
なので、ここで別れることにした。
次の日、連絡って連絡手段無いじゃん。残り少ない今月分の食事代を渡して、明日はマンションで待機してもらうことを告げた。
その足で、携帯ショップに行き、必要分のスマホを用意する。
途中店長と名乗る人が相手してくれたが、数が多いので、明日の開店までには用意しとくので、取りに来てくださいとの事であった。
忘れないようにしなければ。
携帯ショップを出ると、丸寿司に向かう。
ここは、ザッ老舗。高校生の僕には格式が違いすぎる。
とてもじゃないが、入りづらい。
暖簾は出てる。看板も《春夏 冬》って出てるし。
秋の文字が中に無い、つまり、秋が無い、秋無い、が転じて、商い、と通じて、商い中、と読ますのだっけ。
店が開いてるのに入れないものだと、店前でモジモジしてると、店が開いて頑固親父風の人が出てきた。
「ン?客か」頷くと「中に入れ」と、そのまま中に入る。
席に促されカウンターに座ると、お婆さんがお茶を持ってきてくれた。
持ち帰りを頼もうとすると、この店ではやってないという。のだが、「稲荷か助六なら良いぞ」と聞こえた。
「親方?」と返すお婆さんに「良いのだ。ただ、本来持ち帰りをしていないから、包みはこの笹の葉と紙になってしまうがいいか」と聞いてきたので、「稲荷と助六1つずつお願いします」と言うと作ってくれた。お婆さんが不思議そうな顔をしながら奥へと消えていった。
早速、稲荷神社の神様のところに持っていく。
待ってましたとばかりに飛び出してくる神様に、奪われる様に稲荷寿司と助六を放馬っていた。うん。何も言いまい。
神様が、「ダンジョンの位置変えといたから」と言ったが、僕には意味がわからずスルーして、畑に水を撒きにいく。
もう半月もたてば、枝豆が回収出来そうだ。楽しみである。




