お店を開く準備13 鷹仁
僕は、足早に漫画喫茶に向かっていた。
なぜ足早かと言うと、家から遠いという事もあるが、すっかり忙しさから忘れていたと言う事実を自分の中で隠したい恥ずかしさがあるからだ。
漫画喫茶に着き、なかを覗くと台智と目があった。
台智は、すぐに定員と言葉を交わすと外に出てきた。
「ご免なさい、遅くなりました」「いえいえ、気にしないでください。所で、どうなりました?」気になるよね。
「おそらく、全部終わったと思いますよ。詳しくはみんな揃ってからでいいです?」「そうですね。では皆を呼んでチェックアウトしてきます」
店に戻っていった台智。
僕は、不動産屋に電話すると、社長がでて既に殆どが用意されているとの事だった。1つを除いて。
暫くすると皆をつれて、奴隷達が店から出てきた。
台智以外は、疲れきった顔をしている。
聞いてみると、定員の見てくる目が段々と呆れた人を見るような目になってきて、怖かったのだそうだ。
後1日居たら、発狂してたかも何て言ってくる。僕も忘れて1日たたなくてよかったと心底思った。
そんな奴隷達を連れて向かった先はハンコ屋である。
僕も必要なのだが、マンション購入のために実印が欲しいのだ。
マップで、ハンコ屋を探して、一番近い店に入った。
「いらっしゃいませ」僕達を眺めた店員が「どの様な物をお探しですか」と聞いてきた。
「実印用の印鑑が欲しいのですが」「じ、実印ですか?」「はい、あっこちらの人達の分も」「えっと皆さん一緒に実印ですか?」「はい」
「そうですか、一般的に男性はこちらの印鑑が使用されてますね」出してきた印鑑は、いつも目にする物よりも随分と太い印鑑であった。
「女性の方は、こちらが一般的ですね」男性の物よりも一回り細い印鑑が差し出される。
素材は、よくわからないが木や金属、水牛や象等があった。
知識としてはあったが、実物を見るのは初めてである。
どれにしようか悩んでいると「ここは象牙で良いのでは?主君」「しゅくん?って」「皆で呼び名をどうしようかと決めてたんですよ。主君でいいですよね。自分達は好きに呼んでください」「そーだねって今言われてもな」
「貴方が主君?」急に店の店員が話に入ってくる。
「えっと、ん?」女性の店員の顔が急に真剣になるのでビックリする。
「あービックリさせて申し訳ありません。実は主君と呼ばれる少年が来たら便宜を図れと言われておりまして」「そーなのって誰から」「あちらのお方から」そう言って、左手を左上へと差し出した。
僕は、差し出された左手の先端を凝視するという古典的なギャグは行わず、差し出すその先にあるものを見て、首をかしげる。
そこには、神棚が添えてあった。よく見ると稲荷神社の神棚だ。
「あの、まさかと思いますけど、残念・・・じゃなかった可愛いお稲荷さんから神言 (神のお告げ)でもあったと」「はい。はじめての事ですが、夢にしてははっきり覚えていたので、確かに可愛い声でした。って貴方も神言聞いたことがあるのですか?」「まっまー。一応」「ホントですね。ホントなんだ。私の頭がおかしくなったのかと思いました」ウンウン、この店員さん普通の人だと僕は思った。
後ろの奴隷達は、話にすら入ってこない。
「でですね、私が便宜ってどうするんですか?値段をまけるとかですか?と聞いてみますと、値段は割り増しでもいいから彼にハンコを作らせてやるように。そのときアドバイスでもしてやってくれとの事なのですが」「そういうことでしたか」じゃ、遠慮なくやりましょう。
僕は、紙とペンを借り、自分の名前を書き、奴隷達の名前をもらう。
それを、加工スキルを使いハンコの大きさに合わせながら字体を変えていくと、ハンコの下書きが出来た。
目を丸くしてる店員に渡すと、固まってしまったところに、店の奥から1人の男性が出てきた。
「貸してみろ」「お、おとうさん」「朝から息子の嫁がおかしな事を言っているから気になっていたが、不思議なこともあるもんじゃな」などと言いながら、紙をチェックして、手直しを加えてくれた。
それに沿って直し確認してもらい、Okをもらう。
次は、ハンコの素材選びだ。
どうやら全員の分をお爺さんの目利きで選んでくれるようだ。
「君は、マッコウクジラでいいじゃろ」えっと、象牙とかじゃないんだ。マッコウクジラと言えば、ダイオウイカを補食する歯鯨で、一角獣同様頭に角が生えた鯨だよね。
「そこの男は、チタンいやゴールドチタンでいいかの」つっこみたい、いきなり合金だよ。頑丈そうな印鑑の上にゴージャスっぽそう。
「そこの小柄の女性はそうじゃの琥珀でいいかの」突拍子もないものを、大昔の木の樹液が化石になったという石でしょ。中に虫とか入ってはさすがにないけどって上の方に何か、小さい葉っぱが入ってるよ。凄い。
「双子か、そっちの賢そうな方は、天然白水晶でいいの」賢いって双子で見分けられる?それにしてもクリスタルとは驚きだ。
「最後のは、天然紫水晶じゃな」最後は色葉のか。・・・色葉さんやっぱりさん付けにしよう。
それで、色葉さんのはアメジストですか。
僕は、早速さっきの下書きを元に、全員の実印を作った。
チェックも終え、装飾品を揃えて会計する。
「全部で100万じゃ」「ちょ、おとうさん。それは高すぎ」高いのか?「技術伝達料じゃ。ホレ」僕は、なにも言わずに帯付きを渡す。「わかっておるのーホレ。儲かったの」「儲かったとかじゃ、すぐ領収書を、えっ要らない」
僕達は店を出た。すぐにハンコ屋の女性店員が追いかけてきた。
「あの、言うの忘れてました。印鑑は自分の住んでる区役所で印鑑登録し印鑑証明を出してもらってね。それと、お稲荷さんにお参りの時は、丸寿司の稲荷を持ってくるようにと仰ってました。では私はこれで」と、言い残して店に戻っていった。
流石、神様抜け目無い。じゃなくて、稲荷寿司を食べたくてハンコ屋を利用した可能性も否定できなく感じている。
そんなこんなで、区役所にはお昼前に着いた。
印鑑登録はスムーズに出来、区役所内にお昼の時の報せの鐘と同時にお腹の虫がなる。
僕が振り返ると、女性陣がそっと顔を背ける。どうやら、漫画喫茶の定員の顔色を伺って、朝食を食べていないそうだ。
僕は、お弁当があるので、何処かでお弁当を買って食べてもよかったが、近くになさそうなので居酒屋に入る。
「すみませーん」「はーい、お昼は営業してないって、あーいらっしゃい、どうぞどうぞ好きなとこ座って。此方は?あー息子から聞いてます。どうぞ中に入って。どうぞどうぞ」龍一、どの様にしゃべったのかな?
お弁当を出して食べ始めるとお茶を出してくれた。
試作品を作ってたのか、次から次へと料理が運ばれてくる。
皆、美味しそうに食べていたが、「お酒飲みたーい」「ちょ、」「わかってるよー色葉ー」「私が愛葉。でもー」「あ、愛葉」「わかってるわかってるお姉ちゃん」聞こえてくる会話の限り、双子の姉妹は馴染んできたというか、これから先も大丈夫のようだ。
問題は・・・美味しいのか箸が止まらないのに喉を詰まらせながら食べてるあかりさんである。
僕は、お弁当を食べながらオヤジさんさんと話をしていた。
すると、突然店に泣き声が響き渡る。
あかりさんの声だった。
皆一斉に席を立つが、あかりさんに近付けない。台智さんも突然過ぎて固まっている。
僕が近づこうとした時、それを止める手があった。オカミさんだ。
「あの子、暫く預かってもいいかな」こういう時は、男手なんて役に立たない。
僕は、大きく頷くと、あかりさんとオカミさんを残して店を出た。
オヤジさんが、自分を指差して一言。
「何で俺まで」




