胡椒まみれ 鷹仁
目の前の色鮮やかな鼠たちに向かっていく紗綾さんは、十手を振りかぶらずに横に腕を伸ばすと、そのまま足元にいる鼠を振り払うように殴り付けた。
大きい鼠と言っても、大人の膝くらいまでしかない大きさだから、十手ではちょっと分の悪い敵である。
同様に木刀でも分が悪いだろう。
十手の先端で、鼠の頭を小突く様に凪ぎ払う芸のない戦い方だ。
まー良いでしょう。
問題は鼠を倒した後の報酬じゃなかった、アイテムだ。
何か、黒い鼠から黒い小さな玉のようなものが、赤と緑と白からも色が同じ玉のようなものが転がりでて、紗綾さんに吸収されていった。
わからない、まさかと思い聞いてみた「鼠の糞ですか?」と。
「違うわよ。これよこれ」そう言って手のひらにアイテムをのせ見せてくる。
確かに違ったし、そのアイテムの正体を僕は知った。
知った上で「鼠の糞ですか」と言ってみる。
鼠の糞と言う言葉に嫌な顔をする彩琥の隣で真面目顔をした龍一が、「これは・・・胡椒ですね」と。
僕のボケは失敗に終ったのである。
そもそも、鼠の糞なんて見たことないから区別もヘッタクリもないんだけどね。
胡椒と言うと、黒胡椒と白胡椒を見たことがある人は多いだろう。
緑色と赤色の胡椒はもしかしたら見たこともないと言う人がいるかもしれない。
採集する時期や製造方法で4種類あるのだ。
さースーパー行って確認してこいと、紗綾さんが言っているけど、「ここの鼠倒せば手に入るよね」と身も蓋もないお言葉は彩琥。
「うちの店では、4種類の胡椒をミックスで使ってますよ」と龍一。
「僕の家では、黒と白と緑の3種類のミックスだよ」と鷹仁。
「私はどうせ、塩コショウだよ」と紗綾さん。
塩コショウ、便利ですよ。
「そんなことより、彩琥の番だよ」「う、うん。頑張るよ、お兄ちゃん」
「そう気張んなくて良いよ。気楽に行こう」
気張って緊張してる人に、言っても逆効果なような・・・。
「胡椒、沢山取ったら特上にしてお父さんとお母さんにプレゼントと言うのもいいかもね」
「が、頑張る」
そう言うと、部屋に入り弓を構える。
僕の隣では、別の攻防が繰り広げられていた。
「ねえ、龍一君。君の家の居酒屋はどんな店なの?」
「どんなって言われても。よくわからないけど普通の居酒屋かと」
逆に普通じゃない居酒屋ってどんなもんなんだ?と、お酒も飲め無い僕が思ってると「備え付けの胡椒にもこだわってるなら、何かいい感じに美味しい物あるかなって思って」と、あばうとな意見だった。
それにしても紗綾さんと、龍一の間が狭いような。
何かこう、ズリズリ近付かれているから、ズリズリ離れる的な近さだ。
龍一が危険な身にあっているのを尻目に、弓矢を射る彩琥を見ていると、少し変化が表れた。
弓矢を1本ずつ射って射ると思ったら、時々2本射る時がある。
2本射る時の、1本は敵に当たるがもう1本は的を外れ何処かに流れてしまう事が多かった。
しかし、続けていく内に2本同時に1つの敵に当たるようになっていく。
僕は、「おーー」と感動のあまり口から声が漏れていた。
それを聞き付けたのか、後ろの二人が覗き込んでくる。
僕が指差すと、指の先端を見る紗綾さん。僕「・・・返答に困るのだけれど」
指の指す方向を見る龍一。
龍一は、2本の矢が刺さるたびに、小さく拍手していた。
そして、最後2体の鼠。
彩琥は、少し深呼吸弓を構え直すと、手に2本の弓矢が表れる。
弓矢を放つ。
2本の弓矢が、それぞれの敵に向かっていくが、敵も弓矢が放たれる瞬間に移動したのか僅かに2体の鼠のスレスレ横を通り、地面に当たり跳ね返った。
動かない的であれば完璧に的貫通コースである。
悔しい顔を滲ますも、直ぐに気を切り替えると、弓矢を1本ずつ鼠に当てた。
全ての敵を倒し、僕の目の前に来てちょこんと座る。
チョッとだけドキッとなってしまったが、「よくやった」とだけ言えた。
そしたら、何かを訴えてくるような目をしてくる。
僕は、さっきよりドキドキしてしまったが、彩琥がステータス画面を開いたので、慌ててステータス画面を開いた。
彩琥は胡椒を渡したかっただけである。
渡された胡椒は、直ぐにでも特上にしたが、今回は数が少なく各色1つしか出来なかった。
スクッと立ち上がると、龍一のそばまでいく彩琥が「お兄ちゃん。沢山取ってきて。お父さんにプレゼントしたいから。私はここにいて胡椒集める」と宣言。
ヤル気満々の妹に対して、若干やる気の無い兄だが、妹のためならと言う気持ちもあるのだろう「わかったよ」とだけ返事する。
彩琥を残して、移動する僕たち3人。
次は、龍一の番である。
龍一は、部屋に入ると、まず木刀を真っ直ぐ正面に構えた。
正眼の構えとも言えるか。
そのまま、ゆっくりと左足を出すと同時に木刀を地面と水平の位置に持っていき右にスライドしていく。
自分の真後ろまで木刀を運ぶと刃を少し前に傾けた。
ここで、鼠達が動き出す。
チョロチョロと龍一の間合いに入った瞬間、左足をさらに半歩前に出すと木刀を右下から左上に切り上げた。
鼠は致命傷を食らったようで、投げ飛ばされながらチリになっていく。
左上にあげた木刀の刃の方向を真下に切り替えると、左足を大きく後ろに下げながら、左にいる鼠を上から叩っ斬る。
その勢いそのままに、左上まであげた木刀を右下に切り下げた。
足さばきや体の動きに合わせて木刀を器用に振る龍一を見ていて飽きない僕であった。
「剣道の先生に言わせちゃうと無茶苦茶だと言いそうだけど、何か凄いね」と紗綾さんも言っている位、見てて飽きない。
龍一の戦いが終わり、移動すると今度は僕の番だ。
今までの敵の中では一番小さい敵になる。
どうしようか悩んだが、普通に手裏剣を投げると、上から下に投げることのなるので1度で1匹から数匹程度しか当たらない事になる。
腰を低くして投げれば或いは、いい感じに行けそうだがと思いふとその場で正座した。
安座でもよかったが何となく正座した。
そして、手裏剣を投げると、見事に弧を描きながら鼠をなぎ倒すことができた。
彩琥のステータスを把握してみるが、特に問題なさそう何だが、胡椒のこともあるので、一度見に行くとした。
速攻で作った布袋を4つ龍一に渡す。「相変わらずすごいですね。ってこれは?」
紗綾さんにも渡す「相変わらずえげつないね。ってっん?」
「これに胡椒別々に入れてきてください。僕は彩琥の様子を見てきます」
そう言うと、僕は彩琥の様子を見に移動した。
邪魔しないようにそっと様子を伺うと、かなり真剣な顔つきで鼠退治していた。
全ての鼠を倒したところで、拍手をしながら部屋に入ると、直ぐに彩琥はよってきてステータス画面を出したので、僕もステータス画面を出し、胡椒を受けとる。
「どう、調子は?」
「良いです。他の皆は?」
「別々に胡椒を集めてるよ」
「うん。お父さんとお母さんにあげるんだ。大丈夫かな・・・」
死神も大丈夫といっていたから問題ないと思うが、彩琥からしたら不安なのは十分にわかる。
「きっと大丈夫。だから、このダンジョンを攻略しちゃお」
「うん」
その後、皆で集めた胡椒は、品質を特上にあげたにも関わらず、皆の手持ちが99個とマックスになった。
満足して次の階段を下り、次の階に進むのであった。




