第十七話「魔王について」
「海斗? いる?」
ムーフニャフニャ。
「寝てるか」
「安奈様。僕にお任せを」
「お任せって何を」
「お目覚めストレートテイル!!」
「グハギャッ!」
俺は何かの一撃で目を覚ました。
「おはよう海斗君」
目の前にはフィルがいた。
殴りたい。この笑顔。
「何の用かな。フィル。喧嘩でも売りに来たのか」
「残念ながら違うよん」
「ごめんなさい。用があるのは私なの」
安奈がしぶしぶそう発言した。
――
ということで俺たちは適当に黄昏る場所に向かった。
「で、話って?」
「私たちの旅の目的。覚えてる?」
そういえばあまり考えてなかったな。
確か魔王を倒すとか何とかって。
それを安奈に話した。
「そう。その通りなの」
「でも魔王に関する情報なんて少しもないしな」
「この前、私が図書館で本を読んでたって言ってたでしょ」
「言ってたな。それがどうしたんだ」
「その中に魔王に関する本があったんだ」
「へえ」
安奈から聞くことによると。
魔王がいたのはとてつもない昔らしく。
魔王は昔の人に封印されてるらしい。
あれ? ってことは?
「その封印を解く必要があるということか?」
「恐らくはそうなると思う」
「まあ、考えてみれば魔王を倒すなんて無茶にも程があるよな」
「その通り、だから安奈様が海斗を殺せば万事解決」
フィルが口を挟んできた。
何だよ。その言い方。
「ちょっとフィル」
「僕は知っている」
「何を?」
「記憶が戻れば嫌でも分かる」
「記憶が?」
フィルの言ってることが分からない。
確かにあの渋い声はお互いどちらかが相手を殺せば元の世界に戻れると言った。
だけど、なぜフィルは安奈に俺を殺して欲したがるのだろう。
「私は殺さない。フィル。貴方は私たちの案内役。魔王を倒すための」
「…………」
「魔王について知ってることがあれば教えてちょうだい」
「……安奈様。お考え直してください。魔王を倒すことなど初めから無理に決まっています」
「どういうこと?」
「魔王討伐で二人まとめて死ぬより、安奈様だけでも生き残ってた方がいい」
「悪いけどフィル。私は意地でも海斗と共に生き残るわ」
「どうしてそこまで」
「私は悪党じゃないもの」
悪党じゃないもの。
確かあの渋い声との対話でもそんな言葉を使っていたな。
安奈は正義感が強いのかもしれない。
だけど分からない。
あの声の主もフィルも、俺が安奈を殺すことを良しとしていない。
逆に安奈が俺を殺すことは良しとしているのに。
意味がわからない。
記憶が戻ればそれが分かるというのだろうか?
ならば。
「なあフィル」
「何かな?」
「記憶が戻れば全て分かるなら、記憶を取り戻せる方法を教えろよ」
「それ名案! 私にも教えてちょうだい」
「まあ、魔王を倒そうとするなら嫌でも記憶は戻ることになるけどね」
「それじゃあ魔王に関しての情報とか」
「今の君たちには教えられない」
「何で?」
フィルは少し間を溜めて。
「君たちの実力が魔王に相応しいと思った時に教えるよ」
というセリフだけ残して後は黙るのみだった。
とりあえず、俺たちは強くなることで見解が一致したので、明日の依頼も頑張るためにもう寝ることにした。
いろいろと気になることはあるが、今はそうするのが最善だと思う。




