第5話
第12章
肩までお湯に浸かっていた。毎晩のように、ザッシュは軽石で体をこすっていた。汚れているとは思えなかったが、ご主人様は毎日体を洗うことを大切にしているらしく、その命令は絶対だった。それにしても、こんなに気持ちのいいことは今まで経験したことがなかった。冷たい水での水浴びには二度と戻れないと思うくらいだった。ご主人様は井戸の冷たい水をそのまま使っているのに、なぜ自分のためだけに温めてくれるのか、わからなかった。
体を拭きながら、メラが話してくれたことを思い返した。ご主人様のことを知れば知るほど、疑問が増えていく。特に不思議なのは、自分が抱いているご主人様の印象と、街の人々が持つ印象のあまりの違いだった。過去に何があったのだろう?毎晩温かいお湯に入らせてくれるこの人と、誰もが怖れるあの人が、同じ人とは思えなかった。いつか答えがわかるときが来るだろう。それまで待てばいい。そう思いながら洞窟に戻ると、いつもの夜の流れが待っているものと思っていたが……
……そうではなかった。ご主人様は赤い衣服を着ていたが、その上に完全な戦闘装備を身につけていた。腰に長剣、背中に短めの剣を斜めに固定し、両前腕には金属の当て物、全身に巻いた紐には短刀や様々な武器、袋や鞘がぶら下がっていた。
何も説明せず、その日の銅貨を手に握らせた。
「寝ていろ。朝までに戻らなければ、好きなものを持って、メラのところへ行け」
「はい、ご主人様」ザッシュは戸惑ったが、それ以上は何も言えなかった。
寝台に入り、ご主人様が準備を整えるのをじっと見ていた。本当に戦いに行くように見えたが、どこへ行くのか?戦争など、少なくとも自分の知る限り起きていないはずだ。
不安がどんどん膨らんできた。本当に戻ってこないかもしれない。死ぬかもしれない。そうなったら自分はどうすればいい?メラのところへ行けと言っていた。確かに助けてくれるだろう。でも今、心の底から思っていたのは、ご主人様に死んでほしくないということだけだった。メラとハノトが自分を見捨てないとは思うが、確信があるわけではない。でもそういうことじゃない、ただ彼に生きていてほしかった。いなくならないでほしかった。
ぐるぐると考える中で、ふと恐ろしい考えが頭をよぎり、体が凍りついた。もしご主人様が本当に戦いに行くのではないとしたら?街で死影と呼ばれ、誰もが怖れるあの人……もし本当に、悪い人だったら?
そんなはずがない、自分には良くしてくれているのに。ザッシュには何が起きているのかわからなかったが、ご主人様に誰かを傷つけてほしくなかった。捨てていかないでほしかった。また一人になりたくなかった。新しい生活が始まってまだほんの数日、でも今まで生きてきた中でこれほど幸せな日々はなかった。なぜ変わってしまわなければならないのか。またすべてを失うのか。
声をかける勇気はなかった。かけたとしても意味はなかっただろう。ご主人様を見ているだけで、今この人を止められる力はこの世に存在しないとわかった。右手で腰の長剣の柄をしっかりと握り、抜けることを確かめた。次に左手で背中の短い方にも同じことをした。そして顔を上げたとき、ザッシュはその目に、普段の冷たく無表情な目とは違う、捕食者の眼差しを見た。それは本当に怖かった。
すぐに動き出した。ただし出口へではなく、洞窟の奥の奥の通路へ向かい、そのまま中へ消えていった。しばらくして、奥から赤みがかった光が漏れ始めた。ザッシュは寝台に一人取り残され、驚きで身動きが取れなかった。
第13章
どれだけ時間が経ったかわからなかった。奥の通路から漏れる赤い光は彼が入ってから変わらず、怖くて寝台を出る気にも、まして覗きに行く気にもなれなかった。それに、あちらから何か音が聞こえるような気がしていた。はるか遠くから届くような音で、魔族の鋭い耳でも聞き取れないほど遠いはずなのに、でもそれはおかしかった。あの通路は数歩で端まで行けるほどの長さで、その先には何もないはずなのだ。あるいは、自分の気づかなかった抜け道でもあるのだろうか。
あれこれ考えながら説明を探してきたが、もうずいぶん前に考えるのをやめていた。ただ毛布を頭まで引き上げてご主人様が戻るのを待っていた。あるいは、考えたくもないことだが、彼が戻らないまま朝だけが来てしまうことのないように、と。
突然、赤い光が消えた。ザッシュはびくりとした。
次の数瞬間が果てしなく長く感じられた。やがて通路の入口に、ご主人様の姿が現れた。少女は心臓が飛び出しそうになった。
ひどい有様だった。血で顔がほとんど見えず、右足を引きずりながらゆっくりと歩き、激しい痛みに耐えているようだった。ザッシュはパニックに陥ったが、彼がテーブルまで歩いて装備を外し始める間、声をかけることも動くこともできなかった。
長くは持たなかった。長剣のついた帯を外し、太腿に巻きつけた武器や装備を固定する紐を解き、背中の短い方を外そうと腕を持ち上げようとした瞬間、床に倒れて動かなくなった。
ザッシュはもう我慢できなかった。寝台から飛び降りた。
「ご主人様!ご主人様!」
頭に大きな傷があった。近づいてみると、衣服も血まみれだとわかった。暗い赤色なのは、遠くから見て目立たないようにするためだったのかもしれない。しかし血のほとんどはご主人様のものではないようだった――体を支えてみると、あの衣服はただの布ではなく、柔らかい皮のように薄くしなやかな、一種の防具だとわかった。少女は必死だったが、パニックを抑えて何かしようとした。でも何をすればいい?
井戸まで走って水を汲んできた。布を濡らし、傷を丁寧に拭き始めた。顎の片側から頭のてっぺん近くまで続く大きな切り傷で、皮膚の下に折れた骨があるようだった。乾いた血と死んだ皮膚と土を取り除こうとしながら、ザッシュの顔は涙でいっぱいだった。
ふと、手が止まった。ある考えが浮かんだ。
もう少しの間迷ったが、それしか試せることはないと自分に言い聞かせた。そしてご主人様の衣服を脱がせ始めた。
第14章
目を覚ましたとき、薄く目を開けてまず思ったのは、もう昼間だということだった。洞窟にたっぷりと光が差し込み、朝はかなり遅くなっているようだった。ご主人様は……
ご主人様!
跳ね起きて、寝台の上に座った。どうして自分がここにいるのか。昨夜は全力で動かそうとしたが重すぎてできず、結局床に並んで横になり、せめて二人が毛布をかぶれるように引っ張ってきたのだった。ご主人様は全身に打ち身があり、何本か骨も折れているようだった。ザッシュは彼が死んでまた一人にしていかないようにと、恐怖でいっぱいのまましがみついていた。体が光り始めるまでの時間がひどく長く感じられ、その後のことは覚えていなかった。
今、目を向けた床の空いた場所を不安な気持ちで見つめた。そのとき気づいた。自分の服が寝台の横に、きちんと畳んで置かれていた。この距離でも、洗ってあることが匂いでわかった。涙が出た。ご主人様は生きている。
でも、いなかった。テーブルの上に布をかぶせて置かれていたのは、すっかり冷めた自分の朝食だった。ご主人様が置いていってくれたのだ。ザッシュはそれを口にした。井戸の脇には赤い戦闘服が置かれ、朝の日差しの中で乾いていた。それを見て、なぜか悔しさを覚えた。これは自分の仕事のはずだ。自分が役に立ちたかった。いや、正確に言えば、役に立てると彼に思ってほしかった。
まだ心の奥に不安は残っていたし、ご主人様が無事でいるのを実際に目で見るまでは完全には落ち着けない。でも今は、やるべき仕事をするしかなかった。洞窟に戻ると……入ってすぐ、通路の入口を見つめたまま立ち止まった。
ご主人様はあの奥へ……どこかへ行く。危険な場所へ。その先には……戦場があるのか。でももう、ご主人様が街の人を攻めたり傷つけたりしているとは思えなかった。きっと別の何かのはずだ。でも、何が?
恐る恐る中へ入った。壁の絵以外には何もない。突起や隠し通路の入口になりそうなものを探して壁を手で触れてみたが、しばらくして諦めた。最後に、岩に描かれた紋様をじっと見た。これが答えに繋がるのだろうか。それ以外には何もなかった。少し怖かったが、指先で軽く触れてみた。何も起きなかった。結局、今はわからないのだと溜め息をついて、仕事に戻ることにした。
しばらくして、洞窟から離れたところで薪を集めていると、魔族の鋭い耳が何かを捉えた。少し離れたところから、石が打ちつけられるような音と、乾いた打撃音が聞こえた。誰かがいる。
木々の向こうに、ご主人様の姿を見つけた。心臓が少し強く跳ねた。近づく衝動をこらえ、代わりに隠れてそっと見ることにした。
木が開けた場所に、訓練か戦闘の練習のための空間があった。丸太が何本も地面に垂直に打ち込まれ、石が積まれてあちこちに置かれ、空中には縄が張られて物を繋いでいた。ご主人様は双剣を両手に持ち、あり得ないほどの速さでその場を駆け抜けながら、完璧に計算されたとしか言いようのない動きで武器を目標に当てていた。遠くから見ていると、その動きは繊細で精密に見えた。本当の力を解放すれば周囲のすべてを壊してしまうとわかっているからこそ、意識的に抑えているのだと感じられた。ザッシュはそれに見入っていた。
どれだけの時間が経ったか気づかないまま、隠れてご主人様を見ていた。ふと、戻らなければと気づいた。見つかったらどうなるかわからなかったし、何より帰ってきたときに自分が家のことをしっかりやっていたと見せたかった。
やがて、ご主人様の料理を真似て野菜を切っていると、入口に彼の姿が現れた。嬉しくて心臓が爆発しそうになったが、彼の目にはいつも通りの冷たさしかなかった。
「おかえりなさいませ、ご主人様」感情を抑えながら微笑んだ。
男はただ武器を箱にしまい、彼女を見た。
「立て」
立ち上がると、また体の状態を確かめるように調べ始めた。
「気分はどうだ」
「とても幸せです、ご主人様」
言葉が口をついて出てから、自分が何を言ったかに気づいた。ご主人様が一瞬、動きを止めた。ザッシュの頬が燃えるように熱くなった。慌てて何か言い直そうと口を開いたが、息が詰まって声が出なかった。
永遠のように感じられる沈黙の後、彼は何も言わずに確認を続けた。あまりの恥ずかしさに、死んでしまうかと思った。
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最後までお読みいただき、ありがとうございます。この物語を引き続き読んでくださり、本当に嬉しく思います。
この章の最後の場面は、ザッシュが少しずつ変わり始めていることを示しています。思わず「とても幸せです、ご主人様」と口にしてしまうその短い言葉には、彼女自身もまだ気づいていない本当の気持ちが込められています。
時に、ふと漏れた言葉のほうが、慎重に選ばれたどんな言葉よりも、その人の本心を語ることがあります。




